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鋼の錬金術師 32

「おい、ウィンリィ。お前、ちょっと見ない内に…」
「綺麗になった?可愛くなった?それとも身長伸びた?」
「伸びてない。伸びるな。むしろ縮め」
「縮まないわよ」
「そうじゃなくて」
「うんうん」
「……………………老けた?」
「あ」
「ッエドのばか!!同い年に見られないのはエドがちっちゃい所為だもん!!」
「誰がチビだ!!!思いっきり殴りやがって!!」
「いやいや、今のは兄さんが悪い」



そういうのは、大人っぽくなったって言うんだよ。

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鋼の錬金術師 31

「もうすぐ今年も終わるなぁ」
「兄さん、年寄りくさい」
「うっさい!」
「感傷?」
「…戻れなかったな」
「そうだね…」
「来年こそは、絶対元に戻ろうな」
「そしたらウィンリィが大きなアップルパイ焼いてくれるかな」
「あぁ、絶対」



今度こそ。
今度こそ。
一体何度願っただろう。
叶えたい願い、届かない両手。
もどかしさばかりが降り積もる。

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鋼の錬金術師 30

「もうひとりあたしが居れば良いのにっ」
「…ひとりで良い」
「だってあたしがふたりよ?効率が良いに決まってるわ!」
「あぁ、作業の」
「そんなワケで今回も徹夜なんだけど」
「………コーヒーでもお持ち致します」
「ミルクたっぷりでお願いね」




普通、そういうのは聞こえないとこで言うもんじゃねぇの?
隣に居るだけで、針のむしろに座ってるみたいだ。
自業自得とスパナを投げた、幼馴染にはいつまで経っても敵わない。

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鋼の錬金術師 29 (未来)

「アル。ねぇ、ちょっとアル」
「どしたの、ウィンリィ」
「エドをどう思う?」
「…兄です」
「知ってるわよ」
「ウィンリィ、その訊き方に問題があると思うんだ」
「よく分からないけど、まぁ良いわ。エドが最近挙動不審なのよ」
「最近?」
「以前とは違った感じの挙動不審」
「あぁ、放っておいて良いよ。その内、面白い事になるから」




それはきっとね、君との距離を測りかねているんだ。
昔から近過ぎた場所にようやく気付いた。
懐かしくて新しい生活、ここが今のスタート地点。

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鋼の錬金術師 28

「あ!良いもの飲んでる!!」
「げ、煩いのに見つかった」
「煩いって何よぅ!」
「言ってるそばから分捕るな!」
「喉渇いてたんだー」
「あぁ、ソウデスカ」
「やっぱりヒトがいれてくれたレモネードはおいしいわぁ」
「ばっちゃん強盗被害ー!!」
「うるさいねぇ」
「同じもの飲むのは気にしないんだ」



ふたりとも、それ何て言うか知ってる?
聞いたところで昔から。
ノーカウントな間接キス。

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鋼の錬金術師 27

「ほら見て見て~っ」
「わぁ、ウィンリィどうしたの?」
「何だ、その格好」
「ばっちゃんが仕立ててくれたの」
「似合ってるよ、その橙色のワンピース」
「ほんと?ありがと」
「どーせオイルで汚すんだから、さっさと着替えとけよ」
「もー!アンタはそういうことしか言わないんだから!!」
「あーあ。行っちゃったよ、ウィンリィ」
「…殴られたオレには一言もナシか」
「素直に可愛いって言えば良いのに」
「誰が言うか!!」



言えたら苦労しねぇっつの!
別に思ってもねぇけど!!
目の端に映った、ひらりと揺れるオレンジ。

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鋼の錬金術師 26

「で?」
「はい」
「壊した?」
「その通りで」
「何度目?」
「か…数えきれない、ほど…」
「分かった上で、更に」
「い、いえす」
「…もーーーーーー堪忍袋の緒が切れたぁぁぁあああ!!!!」
「落ち着いてウィンリィ!!」
「そうだ!落ち着け!!な?!」
「誰が!誰の所為で!!落ち着けないと思ってんのよ!!!」
「オレの所為です!!!」
「分かってるならそこに直れーーーーー!!!!」
「ぎゃーーーーーーーー!!!!」
「…あぁ、そうか。これって一種のストレス解消かもしれない」



動かなくなった兄と怒り冷めやらぬ幼馴染。
毎度ながらの光景に、呆れるやら和むやら。
とにかくここは、
ほとぼりが冷めるまで愛犬と共に散歩にでも行った方が吉だろう。

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鋼の錬金術師 25 (『つないだ手』CD通常版裏イラ妄想文ver.3)

ちょっとばかりアレな内容です(大笑)。
反転。


微かな重みを背中に感じた。
エドワードは手元に落としていた視線を上げて、肩越しに振り返る。
仄暗い部屋の中でも淡く浮かぶはちみつ色の髪が目の端に映った。
寝入ってしまったらしい幼馴染に、
やれやれといった風体で彼は頬を緩める。
疲れているのは身体だけではないだろう。
張り詰めていた感覚がやっと緩やかにほどけて行く。
寝かせてやろうと僅かに腰を浮かせたエドワードは、
寄りかかる彼女に違和感を感じた。
(…あれ?)
寄りかかっている所為で低い頭の位置はともかく、
どうにもしっくりこない。
久しぶりに会うと言ってもここ数日は共に過ごしていて、
今になって気付くのも妙な話だ。
うんうん唸って考えていたエドワードは、ふと思い付いた。
もう一度彼女を振り返る。
(そうだ、肩幅…)
前にリゼンブールに帰ったとき。
中央で呼び出したとき。
ラッシュバレーに出向いたとき。
ちょっとずつ、ほんのちょっとずつ。
気付かなかったのはきっと、エドワードだ。
機械鎧を扱っている所為か、
同じ年頃の少女と比べればそうでもないものの、
男と比べて薄く細い肩に華奢な身体。
異性であることを意識したことはない。
けれど、彼女は確かに少女で、彼は確かに少年だった。
(こいつ、こんなに背中小さかったっけ…?)
唐突に思い付いてしまった事実に、エドワードは心細くなる。
いつも支えてくれる両腕が、こんなにも細いだなんて思わなかった。
彼女が小さな少女であったことに愕然とした。
それほどまでにウィンリィが大きな存在だったのだと思い知る。
エドワードはいつも迂闊だ。
故郷の空と同じ色をした瞳が見えないことが、
今はこんなにも不安を掻き立てる。


「…ウィーンリィ」


声が、聞きたい。


「ウィンリィさーん」


起きて、微笑って。


「寝るなら着替えて、ベッドで寝てくださぁい」


そこに居ることが夢ではないのだと想い、知らせて。


エドワードが何度か身体を揺すると、
ウィンリィは眠たげな声を上げて身じろぎした。
気持ち良く眠っていたところを起こされ、少々不機嫌だ。
「ん゛ー…」
何度も目を擦り、気を抜けばすぐに眠ってしまいそうな彼女が、
寄りかからずに座り直すのを見届けて、
エドワードはベッドから立ち上がる。
くい、と袖の端を引かれて、彼は立ち止った。
「ぱじゃま、とって…」
「自分で取れよ、それくらい」
「とーるーのー」
幼い子どものようにぐずり始めたウィンリィには、
逆らわない方が吉だとエドワードは諦めてクロゼットへ向かう。
ハンガーに掛けられているジャケットを押し退け、
その下で綺麗に畳み込まれているアメニティのパジャマを手に取った。
ほら、と手を伸ばした彼の後ろで白いものが放られた。
視界の端に映ったそれを、
何とは確認せずに振り返ったエドワードが悪いのか。
それとも彼女の我儘を怒鳴りつけて、
いつものように部屋を出れば良かったのか。
どちらであったとしても、
たった今起こり得た事象は目の前にあるひとつだけ。
ばさり、とエドワードの手から床へ向かって夜着が落ちる。
「えど…?」
寝ぼけ眼で呂律の回らない口調の彼女の思考は、
あまりよく働いていないようであった。
やはりはっきりと叩き起こしていれば良かったのかもしれない。
ベッドの上に座り込んだままのウィンリィは、
スカートは履いていたものの既に上着を脱ぎ捨て、
豊かな膨らみを覆い隠す下着のみを身に着けていた。
うっかり凝視してしまったエドワードの目には、
可愛らしいフリルとリボンがあしらわれた淡いブルーのデザインから、
恐らくホックを外そうとして背後に回されていた彼女の指が、
スローモーションのようにゆっくりと動く様まで、
しっかりと映っていた。
金具が軽い音を弾かせて、お互いの手を離す。
するりと肩紐がなめらかな肌の上を滑り落ちた。
拘束を解かれた弾力のある双丘がエドワードの視線の先で揺れる。
その瞬間、
ぼんやりと目を瞬かせていたウィンリィの意識が一気に浮上した。
「―――…エドッッ!!?」
シーツを掻き集め、前屈みになって身体を隠す。
エドワードも彼女の声で我に返り、慌てて背を向けた。
「やだやだやだ!何で居るの?!」
「何でじゃねぇよ!お前がパジャマ取れって言うから…!!」
この声は間違いなく半泣きだ。
片手で顔を覆い、エドワードは項垂れる。
男は見ても見られても犯罪者扱いで理不尽なことこの上ない。
しかしながら、彼女の疑いを否定出来ないことも確かだった。
(み、見え、た…かも…)
意図的でないとは言え、
ばっちりと見えてしまった幼馴染の少女の身体は、
もう既に少女ではなくて。
彼女は咄嗟に隠したものの、弾む膨らみの先で揺れる、
濃桃の頂までエドワードはしっかりと見てしまった。
記憶を消去するには思春期の彼にとって衝撃が強すぎる。
気不味い沈黙が降りた。
お互い真っ赤になっていて動くことも出来ない。
「……………すけべ、覗き魔、痴漢…エドに見られたぁ…っ」
すん、と鼻を鳴らして、くぐもった声が聞こえる。
シーツに顔を押し付けているのだろう。
ついでに泣いているのは間違いない。
理不尽だ。
別に見たくて見たワケではない。
見せろと言ったワケでもない。
言わば不慮の事故。偶然。間が悪かっただなのだ。
(そりゃ、ちょっとくらい…)
ラッキーと思わないでもなかったけれど。
だからと言って、この言い草は心外だ。
「おっ…前なぁ!!」
ウィンリィがシーツで前を隠しているのを一応目の端で確認して、
エドワードは勢い良く向き直る。
この際、
腕に引っかかり放しの下着は見えないものだと自己暗示をかけた。
「襲われても文句言えねぇ状況だぞ?!幼馴染だからってな、ヒトが居るときくらい少しは警戒しろ!!」
「お、おそ、う…?」
真っ赤な顔をしたまま、
ウィンリィは聞き慣れない単語にびくりと肩を揺らした。
しまったと後悔してももう遅い。
もう少しばかり言葉を選べば良かった。
「あ、いや、その、オレがどうのじゃなくて、だな」
じり、とエドワードは後ずさる。
ここでまた大声を出されても、今の状況では言い訳が出来ない。
「で、でも、アルが来るかも、しれない、し…」
視線をうろうろさせながら、ウィンリィは口ごもる。
落ち着かないのはこちらも同じだ。
「え、いや、アルは来ないと思う、けど…」
ここ、お前の部屋だし…。
言うもエドワードは噛み合わない会話が上擦っていることを自覚する。
彼女からの台詞は予想していたような返答ではなかった。
見当外れ、だけれども彼の中で期待と不安が入り混じる。
「そっそっかな」
「お、おう」
(まさか、だろ)
違うかもしれない。そうかもしれない。
(だって、これじゃまるで…)
エドワードはゆっくりとベッドの脇へ歩み寄る。
潤んだ瞳が彼を見上げた。
じっと、彼が口を開くのを待っている。
間違いなら、冗談だと笑い飛ばせば良い。
「…アルが来なけりゃ、襲っても良いって言ってるようなもんだぞ」
分かっているのかとエドワードは暗に示す。
ウィンリィの身体中が沸騰したように赤く染まる。
どう答えれば良いのか逡巡して、彼女は俯いた。
そうしてか細く、秘めやかに、
ともすれば聞き逃してしまいそうな声で彼女は小さく頷いたのだ。
良いよ、とその右手が彼の左手を掴んだ。
それだけで良かった。
想いを伝える言の葉はまだ、紡げない。
例え、彼女の右手が彼の左手に触れたその瞬間、
お互いの想いに気付いたとしても。
これから先、全てが終わるまではただ一度の逢瀬だったとしても。
欲したことを恥じはしない。
幼かったからと逃げはしない。
触れ合ったことを、絶対に後悔などしない。
だから言ったのだ。
柄にもなく一方的な約束を交わしたのだ。
次に会うときには嬉し泣きをさせてやると、
己が信じた道を決して諦めはしないのだと誓いを立ててまで。
君と共にある未来を、ただ信じて。

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鋼の錬金術師 24 (『つないだ手』CD通常版裏イラ妄想文ver.2)


これは一体何の試練だ。
泣いてはないけれども黙り込んだまま、
背中の向こうに居る幼馴染に、
多少の気不味さを覚えて静かにしていたオレが悪いのか。
数分後、降りかかってきた重みと規則正しい呼吸。
(…こいつ、寝てやがるッ)
そういえば、昔からオレと同じくらい寝入るのが早かった。
今思い出してももう遅い。
どうせ見えないからと苛立ちを隠さず肩越しに振り返れば、
こちらの気も知らずにすやすやと眠るウィンリィの顔。
呑気な寝顔に嘆息する。
おのれ、顔に落書きでもしてやろうか。
…したが最後、倍返しどころじゃ済まないだろうけども。
昔からどうにもこの幼馴染に勝てた試しがない。
弟にも勝てたのは一度だけ(しかも卑怯な手で)。
オレの人生ってもしかしなくても負けっ放し…?
うおお、駄目だ、落ち込んできた。
とにかく、今の状態だとこいつが体勢崩して倒れ込むのは時間の問題。
そしてオレも部屋に戻れない。
どうにかしてベッドに寝かせて、さっさと出て行きたいんだ、が。
(さて、どうする)
避ければ一気に倒れ込んで、目を覚ましたウィンリィからスパナ。
この体勢のまま、朝まで我慢…腰が痛い。
アルを呼ぶか、
いや、隣の部屋まで聞こえるような大声はウィンリィが起きる。
(えぇと)
左腕、後ろに回るか…お、何とかなりそうかも。
かなり無理な体勢でオレとあいつの間に左腕を折り曲げて入れ込み、
ゆっくりと身体を倒していく。
よし、成功。
あとは枕まで引き上げて、っと。
(…ブランケット、下に敷いてるし)
一旦、ウィンリィを抱き上げるなり何なりしないと、
このまま放置ってことになる。
流石に風邪、ひくよな、やっぱ。
で、オレさっき何て言った。
(抱き上げる…しか…ない、よな…?)
いっいやいや!
昔、何かの映画で見た、
食器置いたままテーブルクロス引き抜く奴とかどうよ!?
…駄目だ、絶対転がす。
最悪、ベッドの脇に落とすか壁に激突。
そんで殴られる、のは多分まだ良い方だ。
確かに前、ドミニクの爺さんとこでおんぶはした。
でもあれは腰が抜けたこいつに必要に迫られてやっただけで。
しかも途中で落としたし。
寝てる所為で多少は違うかもしれないが、体重は多分問題無い。
持ち上げられないことはない、と思う。
問題は。
(この柔っこいのに触れってか…!!)
骨があるんだか無いんだか、いや、あるに決まってるけど、
このふにゃふにゃしたのを抱き上げるってのが怖い。
抱き上げた瞬間に目を覚まして殴られるのも嫌だ。
(い、言い訳がましい…)
…あぁそうだよ、白状するよ、オレはこいつに惚れてるんだよ!!
だからいちいち罪悪感があるんだよ!!
考えてもみろよ!
この整ったシチュエーションで、上手い具合にアルフォンスも居ない!
据え膳ってこのことを言うんじゃねぇの?!
この状態でウィンリィに触ったらどうなるか分からねぇんだよ!!
とか何とか言ってみたところで空しくなるだけで。
意識も承諾もない状態で何が出来るかと言えば何もなくてだな。
オレはそこまでがっついてない。
がっついてないぞ、うん。
…大丈夫、泣いてない。
「おーい、ウィンリィ。今から抱き上げるけど、頼むから起きるなよ泣くなよ殴るなよ」
最後の方はワンブレス。
オレは確かに言ったからな。
出来るだけ揺らさないようにして、ウィンリィを抱き上げる。
片腕でもイケそうだな、よし。
ブランケットを捲って寝かせればオレの役目は終わり。
そんで部屋に帰る。
「へ?」
それも、予想外なことが起こらなければ、の話だった。
「…んん…」
嘘だ。冗談でも笑えない。
「…ん?」
しかも起きるか、この状況で。
「え、ど?」
呂律の回らない舌っ足らずな声で、ウィンリィは目を瞬かせる。
その幼馴染の両腕はオレの首に。
狙ってない、ましてや無理矢理でもない。
こいつが無意識にデンでも抱き寄せるようにくっついてきただけだ。
その上、そこで目が覚めただけだ。
オレはひとっつも悪くない。
「…え!?なっ、なに…ッ」
あまりに顔の距離が近いことに驚いたのか、
ばっちり起きたウィンリィは咄嗟にオレから離れようとした。
のが悪かった。
片腕で抱き上げてる状態で急な動きをされれば、
流石にオレだって体勢を崩す。
「うお?!」
「きゃあっ!!」
落ちたのはベッドの上。
一応庇ったからウィンリィに痛みはないはずだ。
更に間の悪いことに、聞こえたノックの音。
「兄さん、ウィンリィ。お腹空くでしょ、何か食べてきたら…」
鍵はかけてなかった。
控え目に開くドアの隙間から弟の姿が見える。
一緒にすっ転んだオレとウィンリィの位置関係に、
今頃気が付いても後の祭り。
倒れてすぐはどうなってるかなんて分からなかった。
とりあえず、
下に居るウィンリィを潰さないように手を着いたのは覚えている。
端から見れば、オレがこいつを押し倒している構図だと、
思い付くまでに時間はそうかからなかった。
しかも眠たさの所為か、ウィンリィの目は潤んでいて…無理強い、
しているように見えなくもないと言うか。
ものすごく気不味いと言うか。
「兄さん…?」
「ア、アル、あのな?」
「見損なったよ!嫌がるウィンリィを押し倒すだなんて!!」
「やっぱり勘違いしやがったぁッッ!!!」
「エド、あんた…あたしが寝てる間に何を…」
「こっちもか!何もしてねぇ!!!」
「ウィンリィ、向こうの部屋使って良いよ。ボクはこっちで兄さん見張ってるから」
「ありがとう、アル…ッ!」
「濡れ衣だッッ!!」
オレは犯罪者か!!
そもそも何だその結束力は!!
このふたりがつるむと勝てる可能性なんか皆無。
どう言ってもオレが悪者扱い。理不尽だ。
さっさと起き上がって、
アルの脇を通り抜けて行くウィンリィは、
先程まで眠っていた姿とは似ても似つかない。
ついでにスパナで強かに殴っていくのも忘れない。
ちょっとでも気を遣ったオレが馬鹿でした。
もう絶対優しくなんてしてやらねぇ!
暴力女!!機械鎧オタク!!
心の中で思いっきりべぇっと舌を出していると、
出て行ったはずのウィンリィがひょこりとアルの後ろから顔を出した。
心中を読まれたかと、一瞬ぎくりとなる。
ぱちぱちと目を瞬かせ、ウィンリィはにこりと笑った。
「けだもの」
たった一言。
幼馴染はオレが撃沈出来るだけの爆弾を落として、
鼻歌交じりに今度こそ隣の部屋へ移動して行った。
ここまで報われないといっそ清々しいくらいだ。
あいつの中でのオレは、
幼馴染の境界線のかなり内側に居るに違いない。
ウィンリィの身長を抜くまでもうちょっと。
最近計ってねぇけど、多分同じくらい。
身長抜いたら判定内くらいには入るよな。
見てろよ、成長期ナメんじゃねぇぞ。
絶対お前より大きくなってやるから、首洗って待っていやがれ!

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鋼の錬金術師 23 (『つないだ手』CD通常版裏イラ妄想文ver.1)

薄明かりの部屋の中、エドワードは背中に微かな重みを覚えた。
ぬくもりと花の香を帯びたそれに、彼は小さく表情を緩める。
(一度に、色々あったもんな…)
泣き顔ではない穏やかな表情で寝入るウィンリィに、
心のどこかで安堵する。
それがほんのひとときの今だけでも良い、彼女が泣くのはもう嫌だ。
開いていた本を閉じ、
身体を少し横に避けてウィンリィの背中に腕を回す。
「…っと」
支えを失った幼馴染の身体は簡単にエドワードの腕の中に倒れ込んだ。
眠っている人間は非常に重い。
エドワードはそれを踏まえた上で構えたのだが、
彼女の身体は想像以上に軽かった。
あれ、と首を傾げている間にウィンリィが身じろぎする。
ずり落ちそうになった彼女を慌てて抱き込んだのは良いものの、
今度は自分の体勢が崩れてしまい、
咄嗟にウィンリィの向こう側に着いたもう片方の腕は、
ベッドのシーツに沈み込む。
ぎしり、とスプリングが軋んだ。
(………………これ、は)
取り落とさなかったのに安堵したのもつかの間、
その体勢の不味さにエドワードは固まった。
薄暗い部屋。
真夜中。
眠っている幼馴染。
不在の弟。
しかもここはベッドの上。
思春期真っ直中のエドワードの思考が、
健全で――ある意味健全ではあるが――あろうはずもなく。
すらりと伸びた手足も、流れるはちみつ色の長い髪も、
丸みを帯びた女性特有の身体つきも、
彼女を形作る全てに鼓動が早くなっていく。
まさか。そんなはずはない。
彼女は幼馴染で、家族みたいなもので、
どんな状況であったとしても、
『そういう』対象に成り得るはずは、ない。
(ナシに、決まって―――…)
不意に、エドワードの背中にしがみ付くものがあった。
恐らくそれは、母親に縋り付く幼子のようなもので。
顔は見えなかった。
眠っているのは間違いなかった。
けれど、聞こえてしまったのだ。
首元にふわりと感じた吐息が、エド、と己の名を呼ぶのを。
弾けるような衝撃が、頭の天辺まで走り抜けた。
見知らぬ感覚ではあったけれど、
エドワードは自分の身体が熱を帯びていくのを感じた。
そうして同時に、駄目だと理性が訴えているのも分かっていた。
抱き締める腕に力を込める。
(…そうだ、もう、駄目なんだ)
エドワードは観念するしかなかった。
笑顔が浮かんだ。
泣き顔を思い出した。
怒った顔と照れた顔はよく似ていて、
困り顔は何度もさせた。
くるくる変わる表情に一喜一憂させられて、
でもきっとそれは、彼女も同じだったに違いない。
愛おしいと想ってしまった。
幼馴染としてではなく。
家族としてではなく。
ほんとうは、ずっと昔から。
彼が、気付いていなかっただけで。
(オレ、こいつに惚れてたんだ…)
当然のようにして出た答は、すとんとエドワードの中に落ち着いた。
だから、仕方がないのだと腹を括る。
端から見ると抱き合っているようにも思える体勢に、
エドワードは手放すのも勿体ない気がして、
そのまま一緒にベッドへ倒れ込んだ。
朝になって驚いたウィンリィに、
スパナで殴られるのは覚悟しておこう。
どちらにしても、彼もそろそろ起きているのは限界だった。
閉じかけている瞼に抗うこともせず、
エドワードは心地よいぬくもりと共に眠りへと落ちて行った。

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