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ぬらりひょんの孫 参
「おいこら、鴆」
「おお、どうした、リクオ」
「どうした、じゃねぇよ」
「怒ってんのか?」
「呆れてんだ」
「俺に?」
「お前に」
「呆れられるようなことをした覚えは無ぇぜ」
「またぶっ倒れたって聞いたがな」
「空耳だろ」
「馬鹿言ってないで、とっとと休め」
「心配してくれんのか、嬉しいねぇ」
「血反吐吐いて喜ぶのはお前くらいだよ」
「喜んじゃいねぇっての」




春の雪を浮かせた杯、波々と香る薬酒を注ぐ。
ほのかに揺らぐ朧月、生絹の如く庭先へと降り積もる。
薄紅の花びら愛でて、言の葉なしに更ける夜に微笑う。

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ぬらりひょんの孫 弐 (爺世代)

「あの、妖様」
「うん?」
「私はヒトの身です」
「まぁ、添うじゃな」
「夫婦に成ることで、貴方様の足枷に成りはしませんか」
「枷?」
「はい」
「可笑しなことを言う」
「私は」
「そなたが儂の何を妨げると?」
「なに、を」
「儂はぬらりひょん。枷に成るものなぞひとつも持っては居らんよ」




深紅の盃に白磁の月を浮かべた酒を喰らう。
陰の穢れも全てを力に。
彼のモノが纏う衣、其は畏。
妖しきまでに鬼かと見間違う、魔魅を宿した瞳に溺れる。

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ぬらりひょんの孫 壱 (爺世代)

「ワシの顔に何か付いておるかの」
「目と鼻と口は付いておりますわね」
「御前にもな」
「見た目はちっともヒトと変わりませんのに」
「ちぃとばかり、ヒトよりも長生きなだけだ」
「其れは良う御座いました」
「良い?」
「私の心が貴方の傍に在るのなら、私が儚く成った其の後もずっとずっと御傍に居られますもの」
「…あまり先のことは考えてくれるな」
「妖様?」
「傍に居てくれ、他には何も望まぬ」
「…はい、我が背の君」



死んでくれるなと、共に悠久の刻をと、
決して望もうとしないのは彼の姫への想いの証。
ヒトと交わった妖かしの矜持。
想いを決めた其の時に、
やがておとなう別れの恐怖すらも受け入れた。
何時か散り行く手折った華を、今はただ腕に抱く。

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