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鋼の錬金術師 24 (『つないだ手』CD通常版裏イラ妄想文ver.2)


これは一体何の試練だ。
泣いてはないけれども黙り込んだまま、
背中の向こうに居る幼馴染に、
多少の気不味さを覚えて静かにしていたオレが悪いのか。
数分後、降りかかってきた重みと規則正しい呼吸。
(…こいつ、寝てやがるッ)
そういえば、昔からオレと同じくらい寝入るのが早かった。
今思い出してももう遅い。
どうせ見えないからと苛立ちを隠さず肩越しに振り返れば、
こちらの気も知らずにすやすやと眠るウィンリィの顔。
呑気な寝顔に嘆息する。
おのれ、顔に落書きでもしてやろうか。
…したが最後、倍返しどころじゃ済まないだろうけども。
昔からどうにもこの幼馴染に勝てた試しがない。
弟にも勝てたのは一度だけ(しかも卑怯な手で)。
オレの人生ってもしかしなくても負けっ放し…?
うおお、駄目だ、落ち込んできた。
とにかく、今の状態だとこいつが体勢崩して倒れ込むのは時間の問題。
そしてオレも部屋に戻れない。
どうにかしてベッドに寝かせて、さっさと出て行きたいんだ、が。
(さて、どうする)
避ければ一気に倒れ込んで、目を覚ましたウィンリィからスパナ。
この体勢のまま、朝まで我慢…腰が痛い。
アルを呼ぶか、
いや、隣の部屋まで聞こえるような大声はウィンリィが起きる。
(えぇと)
左腕、後ろに回るか…お、何とかなりそうかも。
かなり無理な体勢でオレとあいつの間に左腕を折り曲げて入れ込み、
ゆっくりと身体を倒していく。
よし、成功。
あとは枕まで引き上げて、っと。
(…ブランケット、下に敷いてるし)
一旦、ウィンリィを抱き上げるなり何なりしないと、
このまま放置ってことになる。
流石に風邪、ひくよな、やっぱ。
で、オレさっき何て言った。
(抱き上げる…しか…ない、よな…?)
いっいやいや!
昔、何かの映画で見た、
食器置いたままテーブルクロス引き抜く奴とかどうよ!?
…駄目だ、絶対転がす。
最悪、ベッドの脇に落とすか壁に激突。
そんで殴られる、のは多分まだ良い方だ。
確かに前、ドミニクの爺さんとこでおんぶはした。
でもあれは腰が抜けたこいつに必要に迫られてやっただけで。
しかも途中で落としたし。
寝てる所為で多少は違うかもしれないが、体重は多分問題無い。
持ち上げられないことはない、と思う。
問題は。
(この柔っこいのに触れってか…!!)
骨があるんだか無いんだか、いや、あるに決まってるけど、
このふにゃふにゃしたのを抱き上げるってのが怖い。
抱き上げた瞬間に目を覚まして殴られるのも嫌だ。
(い、言い訳がましい…)
…あぁそうだよ、白状するよ、オレはこいつに惚れてるんだよ!!
だからいちいち罪悪感があるんだよ!!
考えてもみろよ!
この整ったシチュエーションで、上手い具合にアルフォンスも居ない!
据え膳ってこのことを言うんじゃねぇの?!
この状態でウィンリィに触ったらどうなるか分からねぇんだよ!!
とか何とか言ってみたところで空しくなるだけで。
意識も承諾もない状態で何が出来るかと言えば何もなくてだな。
オレはそこまでがっついてない。
がっついてないぞ、うん。
…大丈夫、泣いてない。
「おーい、ウィンリィ。今から抱き上げるけど、頼むから起きるなよ泣くなよ殴るなよ」
最後の方はワンブレス。
オレは確かに言ったからな。
出来るだけ揺らさないようにして、ウィンリィを抱き上げる。
片腕でもイケそうだな、よし。
ブランケットを捲って寝かせればオレの役目は終わり。
そんで部屋に帰る。
「へ?」
それも、予想外なことが起こらなければ、の話だった。
「…んん…」
嘘だ。冗談でも笑えない。
「…ん?」
しかも起きるか、この状況で。
「え、ど?」
呂律の回らない舌っ足らずな声で、ウィンリィは目を瞬かせる。
その幼馴染の両腕はオレの首に。
狙ってない、ましてや無理矢理でもない。
こいつが無意識にデンでも抱き寄せるようにくっついてきただけだ。
その上、そこで目が覚めただけだ。
オレはひとっつも悪くない。
「…え!?なっ、なに…ッ」
あまりに顔の距離が近いことに驚いたのか、
ばっちり起きたウィンリィは咄嗟にオレから離れようとした。
のが悪かった。
片腕で抱き上げてる状態で急な動きをされれば、
流石にオレだって体勢を崩す。
「うお?!」
「きゃあっ!!」
落ちたのはベッドの上。
一応庇ったからウィンリィに痛みはないはずだ。
更に間の悪いことに、聞こえたノックの音。
「兄さん、ウィンリィ。お腹空くでしょ、何か食べてきたら…」
鍵はかけてなかった。
控え目に開くドアの隙間から弟の姿が見える。
一緒にすっ転んだオレとウィンリィの位置関係に、
今頃気が付いても後の祭り。
倒れてすぐはどうなってるかなんて分からなかった。
とりあえず、
下に居るウィンリィを潰さないように手を着いたのは覚えている。
端から見れば、オレがこいつを押し倒している構図だと、
思い付くまでに時間はそうかからなかった。
しかも眠たさの所為か、ウィンリィの目は潤んでいて…無理強い、
しているように見えなくもないと言うか。
ものすごく気不味いと言うか。
「兄さん…?」
「ア、アル、あのな?」
「見損なったよ!嫌がるウィンリィを押し倒すだなんて!!」
「やっぱり勘違いしやがったぁッッ!!!」
「エド、あんた…あたしが寝てる間に何を…」
「こっちもか!何もしてねぇ!!!」
「ウィンリィ、向こうの部屋使って良いよ。ボクはこっちで兄さん見張ってるから」
「ありがとう、アル…ッ!」
「濡れ衣だッッ!!」
オレは犯罪者か!!
そもそも何だその結束力は!!
このふたりがつるむと勝てる可能性なんか皆無。
どう言ってもオレが悪者扱い。理不尽だ。
さっさと起き上がって、
アルの脇を通り抜けて行くウィンリィは、
先程まで眠っていた姿とは似ても似つかない。
ついでにスパナで強かに殴っていくのも忘れない。
ちょっとでも気を遣ったオレが馬鹿でした。
もう絶対優しくなんてしてやらねぇ!
暴力女!!機械鎧オタク!!
心の中で思いっきりべぇっと舌を出していると、
出て行ったはずのウィンリィがひょこりとアルの後ろから顔を出した。
心中を読まれたかと、一瞬ぎくりとなる。
ぱちぱちと目を瞬かせ、ウィンリィはにこりと笑った。
「けだもの」
たった一言。
幼馴染はオレが撃沈出来るだけの爆弾を落として、
鼻歌交じりに今度こそ隣の部屋へ移動して行った。
ここまで報われないといっそ清々しいくらいだ。
あいつの中でのオレは、
幼馴染の境界線のかなり内側に居るに違いない。
ウィンリィの身長を抜くまでもうちょっと。
最近計ってねぇけど、多分同じくらい。
身長抜いたら判定内くらいには入るよな。
見てろよ、成長期ナメんじゃねぇぞ。
絶対お前より大きくなってやるから、首洗って待っていやがれ!

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