「えぇっと、分けて運べば良いか」
「……」
「3回…くらいかなぁ」
「おい」
「ん?」
「男手あるんだから、オレかアルに頼めよ」
「男手?」
「男手」
「…………あぁ!そういえば!」
「あれ、どしたの兄さん」
「べっっっっっっつに!!!」
そりゃあ、この家には普段お前とばっちゃんしか居ないけどさぁ!
もちっと頼ってくれても良いんじゃねぇの?!
悔しいのは並んだ身長、こちらが頼りっ放しの情けなさ。
[6回]
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「兄さん」
「あ?」
「さっき、ウィンリィと何話してたの?」
「あー…別に」
「…僕に言えないようなこと、なんだ」
「それ、は…」
「言えないんだ」
「アル?」
「…兄さんのえっち!すけべ!!いやらしい!!!」
「ッどんな勘違いだぁぁぁぁああああ!!!」
走る背中を追いかける。
きっちり出入り口を錬金術で塞いでいく所が性質悪い。
違うと言い切れなかった、雨上がりの朝。
[6回]
「機械鎧、整備くらいならやってあげようか?」
「いや、良い」
「遠慮してんの?ウチのボスでもそこまで鬼じゃないよ」
「そうじゃなくて、他の奴に触らせると怒るから。うちの整備師」
「まぁ、芸術品みたいなもんだからねぇ」
「………弟くん、整備師って?」
「………幼馴染の女の子です」
あれで無意識?ほんとに自覚ないんだから。
どれだけ大事にしてるかなんて、誰が見たって分かっちゃう。
最高傑作と胸を張る、幼馴染の笑顔が浮かんだ。
[6回]
「傷だらけ」
「…うん、ごめんね」
「どうしてアルが申し訳なさそうなの」
「兄さんは謝らないでしょ」
「絶対にね」
「だからそれも含めて、ごめん」
「エドとアルが」
「え?」
「無事に帰ってきてくれるならそれだけで良いの」
面と向かって言ったのならば、君は絶対に言い訳しない。
沈黙は肯定、謝れないから謝らない。
意地っぱり、意気地なし。
君のそういうとこ、ずっと前から知ってたよ。
[5回]
「オレ、お前が隠し事してるのって何となく分かるんだよな」
「ふぅん?」
「だからさ」
「エド?」
「ウィンリィ、こっち向け」
「別に、何もないわよ」
「嘘吐け」
「嘘じゃないってば」
「…だったら帰ってきたときのあの妙な間は何だ!!」
「ごめん無理!とてもあたしの口からは言えないわッッ!!!」
言うが早いか、脱兎のごとく逃げ出した。
訊きたくないが、訊かなかったら後悔する。
長年の経験が警告音を盛大に鳴らしている気がする午後。
[6回]
「君は、泣かないんだね」
「泣いたら、あなたは困ってしまうでしょう?」
「困るな」
「だから泣かないの」
「泣いても良いよ」
「困るんでしょう?」
「困るけれど、ひとりで泣かれるのはもっと困る」
「…私は」
「トリシャ?」
「どうせなら笑って、あなたと子どもたちと過ごしていたいわ」
洗い立てのシーツが風に靡く。
青い空に浮かぶ雲がゆっくりと流れて行く。
微笑む彼女が愛おしくて、
遠くで手を振る子どもたちが愛らしくて。
この小さな倖せが続くよう、この手で守って行けるのなら。
[5回]
「お菓子食べたい」
「ウィンリィ、作れるじゃない」
「自分で作れよ」
「違うのよ!ヒトの作ったものが食べたいの!!」
「ばっちゃんのカントリーケーキは?」
「すでに面倒だからって却下されたわ」
「そうだ、兄さんに作って貰えば?」
「材料の無駄って知ってる、アル?」
「パンケーキくらい焼けるぞ!!」
「材料言ってみよう、兄さん」
「小麦粉、砂糖、卵―――…水」
「何よ、混ざってるのは平気なくせにー!!」
「扱うのは嫌だ!臭いが無理!!」
「じゃあ、次から機械鎧壊すごとにミルクパンケーキ練成」
「良い考えだわ、アル」
「大却下!!」
お皿くらいは準備してあげる。
とっておきの紅茶を淹れて、あったかふわふわパンケーキ。
たっぷりバターとシロップ添えた不器用な君の、不器用な優しさ。
[7回]
「あ、兄さん前…」
「どわ?!」
「きゃあ?!」
「ぶつかるよ」
「ぶつかったよ!!」
「もう!家の中でくらい前見て歩きなさいよね莫迦!!」
「ちょっとよそ見しただけだろッ」
「本読みながら歩いてるくせによく言うわよッ」
「ウィンリィ、大丈夫?」
「あー…ちっちゃい!螺子ばらまいちゃった」
「何でそこを強調する必要があるんだよッ」
「兄さん、拾う!」
「分かってるよ!!」
目に入った、螺子を拾う白い指先。
傷だらけ、マメだらけ、欠けてしまう爪は短くて。
ちっとも女の子な手じゃないのに、
彼女らしいその手は嫌いじゃないんだ。
[3回]
「エド、雪降ってきたよ」
「うええ、積もらないと良いけどなぁ」
「何でよ、勿体無い」
「お前、この寒い中、雪かきする身にもなってみろ」
「あたしも手伝うじゃない」
「あぁ、去年は大きな雪だるま作ってたな。オレが雪かきしてる隣で」
「あれも立派な雪かきよ!」
「じゃあ、今年は逆で」
「えっ、嫌よ。面倒くさい」
「やっぱり遊んでんじゃねぇか!!」
「お前たち、患者が居るときくらい静かにおし!!」
そっと窓を押し開く。
悴む両手をすり合わせ、白い息はゆるりと溶けた。
空から零れる冬のかけら、子どものように心が躍る。
[3回]