「諦めないって決めた」
「えぇ」
「逃げないって決めた」
「おう」
「生きるって、決めたんだ」
「あぁ」
「なのにどうして」
「どうして」
「どうして」
「どうして」
「どう、して…?」
どうしてこの手には魂を縛る呪以外、何一つとして残らなかった。
溢れる涙すら、明日には忘れてしまうのだろう。
覚えた痛みすら、明日には無かったことになってしまうのだろう。
忘れないと叫びながら、忘却の底へと堕ちて行く。
[3回]
「ゆき」
「あ?」
「みたいだ、なー」
「雪?」
「桜の、はなびら…吹雪」
「桜吹雪」
「へ?」
「って言うんだ。覚えとけ」
「うん、わかった。覚えたー!」
「ほー、来年聞くからな」
「何だよ、もー!」
ごめんね。
ごめんね。
ごめんなさい。
溢れ出す感情に名付けられたのは、根拠のない切なさと痛み。
今年も過ぎ行く雪の季節に怯え、泣いた。
[1回]
「消えないよね」
「悟空」
「皆、居なくならないよね」
「…お前がそう、望むのなら」
「絶対、約束だよ」
「あぁ、だから」
名前を呼ぼうとして、全ての景色が闇に染まる。
忘れて良い、と彼が笑った。
理由さえ分からないまま、幼子は声が枯れるまで―――泣いた。
[2回]
「あ、蛍!」
「本…写真集か?」
「天ちゃんとこにあった」
「ほー」
「金蝉、見たことある?」
「無ぇな」
「俺ね、あるよ。夜にふわってした光でぶわーっていっぱいになるんだ」
「へぇ」
「な、な、金蝉。夏になったら見に行こう?天ちゃんと捲兄ちゃんも一緒に!」
「…誰かさんが仕事の邪魔をしなくて、暇が出来るんだったらな」
「何だよ、ソレー!!」
賑やかしく喚く幼子に苦笑が漏れる。
ゆびきりを知らない小さな指が服の裾へとしがみ付く。
果たされないだろう約束がまたひとつ、増えた。
[2回]
「…金蝉」
「何だ」
「天ちゃん」
「はい?」
「ケン兄」
「おう」
「俺、忘れないから―――皆が忘れても、忘れないから」
忘れない、忘れたくない。
戒めは昏く、深く。
強く願った故に、忘却こそが幼子の罪咎。
[5回]