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鋼の錬金術師 23 (『つないだ手』CD通常版裏イラ妄想文ver.1)

薄明かりの部屋の中、エドワードは背中に微かな重みを覚えた。
ぬくもりと花の香を帯びたそれに、彼は小さく表情を緩める。
(一度に、色々あったもんな…)
泣き顔ではない穏やかな表情で寝入るウィンリィに、
心のどこかで安堵する。
それがほんのひとときの今だけでも良い、彼女が泣くのはもう嫌だ。
開いていた本を閉じ、
身体を少し横に避けてウィンリィの背中に腕を回す。
「…っと」
支えを失った幼馴染の身体は簡単にエドワードの腕の中に倒れ込んだ。
眠っている人間は非常に重い。
エドワードはそれを踏まえた上で構えたのだが、
彼女の身体は想像以上に軽かった。
あれ、と首を傾げている間にウィンリィが身じろぎする。
ずり落ちそうになった彼女を慌てて抱き込んだのは良いものの、
今度は自分の体勢が崩れてしまい、
咄嗟にウィンリィの向こう側に着いたもう片方の腕は、
ベッドのシーツに沈み込む。
ぎしり、とスプリングが軋んだ。
(………………これ、は)
取り落とさなかったのに安堵したのもつかの間、
その体勢の不味さにエドワードは固まった。
薄暗い部屋。
真夜中。
眠っている幼馴染。
不在の弟。
しかもここはベッドの上。
思春期真っ直中のエドワードの思考が、
健全で――ある意味健全ではあるが――あろうはずもなく。
すらりと伸びた手足も、流れるはちみつ色の長い髪も、
丸みを帯びた女性特有の身体つきも、
彼女を形作る全てに鼓動が早くなっていく。
まさか。そんなはずはない。
彼女は幼馴染で、家族みたいなもので、
どんな状況であったとしても、
『そういう』対象に成り得るはずは、ない。
(ナシに、決まって―――…)
不意に、エドワードの背中にしがみ付くものがあった。
恐らくそれは、母親に縋り付く幼子のようなもので。
顔は見えなかった。
眠っているのは間違いなかった。
けれど、聞こえてしまったのだ。
首元にふわりと感じた吐息が、エド、と己の名を呼ぶのを。
弾けるような衝撃が、頭の天辺まで走り抜けた。
見知らぬ感覚ではあったけれど、
エドワードは自分の身体が熱を帯びていくのを感じた。
そうして同時に、駄目だと理性が訴えているのも分かっていた。
抱き締める腕に力を込める。
(…そうだ、もう、駄目なんだ)
エドワードは観念するしかなかった。
笑顔が浮かんだ。
泣き顔を思い出した。
怒った顔と照れた顔はよく似ていて、
困り顔は何度もさせた。
くるくる変わる表情に一喜一憂させられて、
でもきっとそれは、彼女も同じだったに違いない。
愛おしいと想ってしまった。
幼馴染としてではなく。
家族としてではなく。
ほんとうは、ずっと昔から。
彼が、気付いていなかっただけで。
(オレ、こいつに惚れてたんだ…)
当然のようにして出た答は、すとんとエドワードの中に落ち着いた。
だから、仕方がないのだと腹を括る。
端から見ると抱き合っているようにも思える体勢に、
エドワードは手放すのも勿体ない気がして、
そのまま一緒にベッドへ倒れ込んだ。
朝になって驚いたウィンリィに、
スパナで殴られるのは覚悟しておこう。
どちらにしても、彼もそろそろ起きているのは限界だった。
閉じかけている瞼に抗うこともせず、
エドワードは心地よいぬくもりと共に眠りへと落ちて行った。

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