「ね、ね、エド。ラベンダーとローズどっちが良い?」
「どっちも匂いがきっつい」
「シトラス系は?」
「それなら平気」
「じゃあ、こっち」
「ところで何のことだ?」
「今日のバスオイル」
「げ!?お前、何でいつも風呂に変なもん入れるんだよ!」
「変じゃないもん!リラックス出来るもん!!」
「ばっちゃんから苦情は?!」
「ばっちゃんの色気が増すって言っ…」
「うおおおおお聞きたくねぇ!!」
「あたしは好きなんだけどなぁ」
「俺は匂いで酔いそうになる」
「食べたくなっちゃう?」
「違うッッ!!」
ローズ時々ラベンダー、ミントの次はあまぁくとろけるストロベリー。
シロップ漬けのフルーツってこんな感じ?
足のつま先までお砂糖漬けのお菓子になっちゃう。
きっと今夜のキスはレモンキャンディみたいに甘酸っぱいわ。
[6回]
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「エド、手」
「…悪いかよ」
「いつもはあんたが嫌がるじゃない」
「お前が必要以上にくっつくからだ」
「そんなにくっついてないですぅ」
「嘘を吐け、嘘を」
「じゃあ、どれくらいがくっついてるって言うのよ」
「これくらい」
不意に抱かれた肩が熱を帯びる。
あたしたち、真っ赤に熟れたリンゴみたい。
すぐに開いた距離が寒くて、寄り添うようにくっついた。
[8回]
「立ち聞き」
「…悪い」
「あたし、何も言ってないんだから」
「アルには言う癖に」
「だってアルだもの」
「オレのことなら、オレに言えよ」
「嫌よ」
「傷付く」
「知らない」
「意地っぱり」
「どっちが」
「あたしのこと好きな癖に」
「………っ」
「ほら、あんただって言わないじゃない」
どうしてこんなに、可愛くない台詞ばっかり出てくるの。
言いたいのはそんなことじゃないんだったら。
言えば良いんだろうと強い力で引き寄せられた。
真っ赤な顔で誤魔化すように抱き締めて、謝れないこの唇を塞ぐ君。
[14回]
「すごく、簡単なことだと思うんだ」
「そうかしら」
「仲直りしたいんでしょ?」
「謝りたくは無いわ」
「謝らなくても良いよ、ただ」
「ただ?」
「さっきと同じことを言えば良いんだよ。ねぇ、兄さん?」
最初からそこに居ましたと、言わんばかりに立ってる幼馴染。
誤魔化す嘘を吐くのが、苦手なことくらい知ってるわ。
気不味そうに視線を逸らした君と同じくらいに赤い頬。
[7回]
「裏口なんかに居たんだ」
「追っかけてくるのはアルなのね」
「鼻声。泣いてたの?」
「女が隠れて泣いてるときは気付かないフリをするものよ、アル。モテないんだから」
「えっ、ほんとに?!…憶えておこう」
「…違うのよ」
「さっきの?」
「ほんとに、嫌いなワケじゃないの」
「そうだね」
「でもね、嫌だったの」
「うん」
「あたしの知らない時間があるのが、嫌だったのよ」
ほんのちょっとの会えない間。
旅をしてた頃なら、なんてことない時間のはずだった。
視線を合わせる高さが変わった、君との確かな空白の時間。
[9回]
「おーい、兄さーん」
「…嫌い」
「兄さーん、戻っておいでー」
「嫌いならまだしも、大っ嫌いって何だ!!」
「え、そこなの?嫌いなら良いの?」
「……良くない」
「おお、珍しく正直」
「じゃなくて、オレは嫌われるようなことは一切…ッ!」
「…………」
「…………」
「一切…」
「あるよね、今に至るまで腐るほど」
機械鎧破壊・無茶な修理要求・暴言の数々えとせとら。
心当たりが多過ぎて、どれに謝ったら良いのか分カリマセン。
追いかけたら殴られる、そんな予感のした背中。
[7回]
「ほれ」
「嘘!」
「マジで」
「うううううう嘘よぉ~っっ!!」
「やっぱり、オレの方が高い!」
「アル!アル!!エドに身長抜かれたぁっっ!!」
「ほんとだ」
「まぁ、エドよりアルがそのうち抜くだろうけどね」
「うっさいミニマム婆!!」
「元ミジンコが生意気言うんじゃないよ」
「誰がミジンコだッ!!」
「…い」
「いい加減認めろよ」
「…エドなんて、大っ嫌い!!!」
「あ、直撃」
面白いくらいにダメージ受けてる。
そういや、嫌いなんて滅多に言われ…あれ、意外と初めて?
硬直したまま動かない兄と、真赤な顔して走って行った幼馴染。
[7回]
「…ウィンリィ、オレ眠たい」
「年越しくらい一緒に起きてなさいよぅ」
「んなこと言ったって、仕事以外であんまり夜更かししねぇし」
「確かにあんた良く寝るわよね」
「そういうわけで」
「ええぇぇええ!!可愛い奥さんのお願いくらい聞いてよー!!」
「そうだよ、兄さん。デンだって起きてるんだし」
「エドは図体でかくなっても子ども体質だねぇ」
「よぉし分かった!そんなに言うなら起きててやるよ!!」
「…扱いやすいわぁ」
押してダメなら引いてみろ。
どこの国の格言だったかしらね。
キッチンから運んできたのは、たっぷり淹れた濃い目のコーヒー。
[7回]
「アル、エド知らない?」
「兄さんなら倉庫の掃除やってたよ」
「ばっちゃんも?」
「多分ね。何が不要必要か兄さんじゃ分からないし」
「………倉庫…?」
「え、うん?」
「エド!待って!あたしがそっちやるから!!」
「…見られちゃ不味いものでもあったかな」
直後に聞こえた幼馴染の悲鳴と兄の爆笑。
忘れてたものが出てくる大掃除、何があったか気になるところ。
僕も後で行ってみよう。
[5回]
「ばっちゃん、風呂空いた?」
「あぁ、もう寝るよ」
「お休み」
「お前たちも疲れたろう。早く休みな」
「もうこんな時間。明日は朝寝坊確定ね」
「そうだ、エド」
「アル達なら、もう寝たぞ?」
「違うよ。まだ、言ってなかったと思ってね」
「?」
「改めて、ロックベル家へようこそ。孫娘を頼んだよ」
「ばっちゃん…」
「……うん。オレも、宜しくお願い、します」
「あ、エド涙目」
「なっ、泣いてねぇ!!」
「うっそだぁ~」
伸ばされたしわだらけの右手に感じた重みとぬくもり。
これまでと、何も変わらないと思っていた。
明日から始まる新しい日常。
変わらないものなんて、何ひとつありはしない。
[9回]