「裏口なんかに居たんだ」
「追っかけてくるのはアルなのね」
「鼻声。泣いてたの?」
「女が隠れて泣いてるときは気付かないフリをするものよ、アル。モテないんだから」
「えっ、ほんとに?!…憶えておこう」
「…違うのよ」
「さっきの?」
「ほんとに、嫌いなワケじゃないの」
「そうだね」
「でもね、嫌だったの」
「うん」
「あたしの知らない時間があるのが、嫌だったのよ」
ほんのちょっとの会えない間。
旅をしてた頃なら、なんてことない時間のはずだった。
視線を合わせる高さが変わった、君との確かな空白の時間。
[9回]
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