「ウィンリィ、寝ぐせ」
「えっ、どこ?!」
「前髪の、ほら」
「さっき、このままでお客さんの前に出ちゃった~ッ」
「誰も気にしないだろ」
「あたしがするの!」
「妙なとこで女らしいよな、お前」
「妙なとこって何よう!」
何、ってそのまま言葉の通りだろ。
ほんとに女か、と何度言ったか分からない。
困ったように眉尻を下げて、必死で鏡とにらめっこ。
可愛いと言ったら怒るだろうか。
[8回]
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「エドはさぁ、子ども何人くらい欲しい?」
「ふたり以上は…って何言わせてんだッッ!!」
「訊いただけじゃない」
「遠回しに誘ってると見なすぞ」
「やれるもんならやってみなさいよ」
どうせ躊躇うに決まってるんだから。
息を飲み、警戒するように一歩分だけ距離を開ける。
やっぱり出来ないんじゃない、言いかけたあたしの唇に触れた君。
[11回]
「あーあ」
「何だよ、アル」
「身体、ちっちゃくなっちゃったなぁ」
「ソレはオレへの厭味か」
「でも」
「うん?」
「兄さんが、近い」
「…そうだな」
「ウィンリィも、ばっちゃんも、デンも、皆」
「あぁ」
「ヒトって、あったかいね」
「今更じゃねぇか」
「うん、今更だ」
握った手のひら、瞬いた目、肺の奥まで酸素を送る。
ひとつひとつ、感覚を思い出しながらゆっくりと伸ばした腕。
泣きそうな幼馴染の顔と、くしゃりと歪められた兄の顔。
倖せの意味を、改めて思い知る。
[7回]
「あ、虹!」
「おお、珍しいな」
「虹のふもとには宝物があるとか」
「非現実~」
「エドは夢が無いのよ」
「オレのは別に、虹のふもとまで行かなくても良いし」
「へ?」
「なん、だ、よ」
「じっ、自分で言っておいて照れないでよね!」
何だってのよ、まったく!
たまに嬉しいこと言ってくれたと思ったらへたれるし!
恰好良さなんて今更求めてないけれど、
繋いだ手くらい握り返してくれても良いんじゃない?
[7回]
「あ゛ー」
「エド、声が変」
「風邪引いたかな」
「喉痛い?」
「扁桃腺腫れてるっぽい。あと咳が」
「うがい薬は、っと」
「塩水で良いよ。それと、暫く仕事部屋で寝る」
「何で?」
「お前も仕事詰まってるだろ。感染ったらどうする」
「そう、だけど」
「不服そうだな」
「だって…ひとりで寝ると、エドが寒いでしょ?」
ソレ絶対、寒いのオレじゃないだろ、お前だろ。
まだ何か言いたげに腕にしがみつく彼女の頭をぐりぐりと撫でてみる。
そしたらきょとんと首を傾げて、何故か同じように撫でられた。
[7回]
「ん?」
「むー」
「寒いのか?」
「ちょっと、あたしがくっつくときは寒いときなの?」
「大抵において」
「ひっどぉい!」
「じゃあ何だよ」
「最近、一緒に並んで座ってないなぁって」
語尾が小さくなっていく彼女。
ちょっと待て、卑怯過ぎる、不意打ちだ。
肩に手を置く前に、擦り寄るように背中に回された腕。
[9回]
「あっれぇ?」
「ん?」
「あたしの定規知らない?」
「おいおい、設計するときの商売道具だろ」
「あ!!」
「突然、大声出すなっ」
「クロゼットの立てつけ悪くなってたから支えに使ったんだった」
「商売道具だよな!?」
そういや、オレの分厚い本、貸したっきり返ってきてない。
まさかと思うけど、まさかだよな?
使用方法に一抹の不安を覚えつつ、彼女の部屋に押し入った。
[6回]
「出来た!」
「おい、縫い目歪んでんぞ」
「ミシンって速いのよ」
「あぁ、そう…?」
「せっかく繕ってあげたのに!」
「そりゃ、ウィンリィさんが思いっきり裂いてくれたからな」
「ドアノブに袖が引っ掛かるなんて思わなかったんだもの」
「へいへい」
「文句言うなら縫い直すわよー」
「文句はあるけど、嫌だとは言ってないだろ」
目を瞬かせた後に嬉しそうに笑うな。
恥ずかしい台詞言ったワケでもなのに、こっちが照れる。
不揃いな縫い目と、元通りのロングコート。
[8回]
「膨らんできた?」
「まだ目立たないと思うけどな」
「ワンピースのが楽だけど、体型戻るかなぁ~」
「産んだ後に考えろ、そういうことは」
「ダイエットするときはエドも付き合ってね」
「オレまで巻き込むな!」
「あたしにちょっとくらい遠慮してよう!」
目の前で、平気でお菓子とかたくさん食べるんだから!
こっちは食事制限してるのにデリカシーが無いわっ。
憎まれ口叩きながらも、君の嬉しそうな穏やかさがくすぐったくて愛おしい。
[10回]