「ちょっと待ってて」
「え、あ、はい!」
「って言ったら、どれくらい待ってくれる?」
「十代目が仰るのでしたらいつまででもッ」
「忠犬ハチみたいだねぇ」
「い、犬、ですか…」
「まさか。君は犬じゃなくてオレの右腕、でしょ?」
「はっはい!勿論です!!」
あぁ何だろう、幻覚が見える。
垂れた耳とちぎれんばかりに振る尻尾。
こんなに慕ってくれるようなことした覚えないんだけどなぁ。
[1回]
「十代目。理由を、お尋ねしても宜しいですか」
「理由」
「この地下アジトの建設についてです」
「秘密基地っぽくて良くない?」
「ご決断も建設も十代目らしくない性急なものでした」
「オレのんびりしてるからなぁ」
「思慮深くいらっしゃいます、だからです」
「…獄寺君、は」
「はい」
「いろんなこと考えすぎて身動き取れなくなっちゃうタイプだね」
「は、あ…?」
「色んなこと出来る広い施設が欲しかっただけ。心配するようなことじゃないよ」
納得出来ないような面持ちで不承不承に頷いた。
ごめんね、ありがと。
今はまだ言えない、仲間への偽りと真実。
[0回]
「沢田綱吉」
「雲雀さん、怒ってます?」
「いい加減、認めたらどうなの」
「ダメツナなら認めてますよ」
「草食動物かと思っていたら、タヌキだったなんてね」
「ひどい言われ様で」
「はぐらかされるのは好きじゃないんだ」
「奇遇ですね、オレもです」
一転して表情が変わる。
見ていて飽きない彼が差し出したのは最大限の譲歩。
真っ直ぐ過ぎるその意思が、揺らぐ日など来ないのだろう。
[0回]
「クロームを使ってまで、一体何の用ですか」
「続き」
「は?」
「この前の」
「…あぁ」
「俺の守護者となる為の条件として9代目における門外顧問が提示したのは城島犬、柿本千種の身の安全と絶対的な保証」
「さあ、どうでしたかね」
「それらの意味するものは彼らが人質ということ」
「…何が望みです、ボンゴレ」
「改めて、俺と取引をしよう」
全く、『甘い』の一言に尽きる。
相手に情けをかけての取引に、公平性などあるはずもない。
慣れ合っているのではないのだと。
不利な条件を出しているのだと。
その上で協力を強いているのだと。
僕らの為のお膳立て。
そうまでして護りたいものがあるのだと君は、
僕の指からリングを抜いた。
[0回]
「伸ばした腕がどこまで届くのか、獄寺君は知ってる?」
「クイズですか?それとも、思想的な見解?」
「さぁ、どっちでしょう」
「もしも十代目が危険に晒されているとして…勿論、打破なさるでしょうけれど!」
「うん」
「そうしたら、俺はどこに居たってお傍に駆けつけます」
「ほんとにやりそうだよね」
「そこに制限はありません。俺の腕は、世界中に届きます」
「…獄寺君らしいや」
「笑わないでください、本気なのに」
「ううん、嬉しいんだよ」
君のまっすぐな瞳が。
君のまっすぐな心が。
もうすぐその腕が届かなくなる。
そんな残酷な台詞を、言えるはずもなく。
[0回]
「骸様」
「おや、クローム」
「まだ眠らないの?」
「まぁ、本体はいつも眠っているようなものですし」
「…ごめんなさい」
「気分を害したワケではありませんよ」
「はい」
「クローム」
「?」
「僕は今更になってやっと、自分の身勝手さを思い知った」
「え?」
「君は、こちら側に来るべきではなかったのかもしれない」
「来るべきでは、なかった…?」
「君を巻き込んだことに罪悪を感じるだなんて虫の良過ぎる話です」
「違う」
「クローム?」
「私が、骸様の力になりたかったの」
「それは」
「骸様は私を必要だと言ってくれた。新しい、命をくれた」
「ただの暇潰しだったかもしれないのに?」
「それでも、選んだのは私だから」
そんなこと言わないで。
そんな風に笑わないで。
たくさんのかけがえのないものを与えてくれた貴方が私の世界全て。
まだ伝えられない『Grazie』、いつかあなたに伝えられる日まで。
[0回]
「もしも」
「はい?」
「俺が酷いウソをついたら、どうする?」
「十代目が嘘、ですか」
「俺に嘘なんて吐けるワケ無いって思ったでしょ」
「い、いえ!そうではなくて!!」
「良いよ、気ぃ遣わなくて。分かってるから」
「もし、そうだったとしても」
「うん?」
「十代目がお考えになられたことです。何か理由があるのだと、思います」
「本当に?」
「はい」
「買いかぶりすぎだよ」
「いいえ!」
「…いつか、俺は皆を傷付ける、きっとね」
「十代目?」
「その時は絶対に、俺を赦しちゃ駄目だよ」
有無を言わせぬ笑顔の裏で、何を思っていたのだろう。
一挙一動全てが、彼自身の為でなく、
彼を大切に想うものの為に繋がっていた。
最期の最期、一筋の光だけでも彼へと繋がっていたのなら、
違う未来を見ることが出来ただろうか。
物言わぬ骸へ捧げる献花。
requiemはまだ歌えない。
[0回]
「もうすぐ、始まる」
「怖気付いた?」
「俺は怖がりですよ、昔から」
「そうだね」
「知ってるなら訊かないで下さい」
「でも」
「でも?」
「臆病だとは思ってないよ」
「それはそれは」
「君が、無害だともね」
嘆息交じりに見せた苦笑は否定か肯定か。
瞳の奥に揺らぐ炎。
上手く隠されたそれは獰猛な獣と同じ色を宿していた。
[0回]
「むーくろー、むっくーん」
「…止めて貰えませんか、気持ち悪い」
「うん、俺も気持ち悪い」
「無理やり波長を合わせて、夢の中でまで何の用ですか」
「今日はクローム居ないんだね」
「ボンゴレ、聞いてます?」
「ちょっとだけ、話を」
「話?」
「話」
「…珍しい。随分と、穏やかではない瞳だ」
「悪巧みをちょっとね」
「君の頭で足りるんですか」
「ブレインタイプの共謀者がふたりもいますから」
「それで?」
「お前に利用されてあげる」
「ボンゴレらしくない妥協だ」
「うん。だから手、貸してよ」
まるで猫の手でも借りるかのように簡単に言ってのける。
確かに彼らには大きな借りもある。
君を利用して、今回だけは君の手駒になってあげましょう。
[1回]