「わぁ、満身創痍」
「…他に言うことは無いのか、弟よ」
「またウィンリィ怒らせたんでしょ」
「その通りだよコンチクショウ!!!」
「痴話げんかに何言えってのさ」
「ち、わ…違うわッッ!!」
「じゃあ何?」
「だからだな、電話がどうのとか、話聞いてないとか」
「それを痴話げんかって言うんだよ」
あぁもう、ばかばかしいったら。
話を聞くだけ無駄だよね。
喚く兄に背を向けて、
結局甘い幼馴染のアップルパイの香りに頬が綻ぶ。
[12回]
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「んむ」
「これ食って大人しくしてろ」
「食べ物でつられたりしないんだから」
「じゃあ要らねぇんだな?」
「要る要る要りますー!!」
「あと1日待ってくれたら、いっくらでも構ってやるから」
「嘘だぁ、仕事終わって1日は爆睡するくせに!」
「余力残しときますぅ」
「…エドが言うと、なんかえろい」
「うっさいわ!」
ちょっとだけ構って欲しくて、仕事部屋を覗き込む。
仕事の邪魔してる自覚くらいあるわよ、ちゃんと。
振り向かない背中に舌を出したら、タイミング良くこちらを見る君。
[19回]
「あぁ、あのヒトは、セリムは無事かしら」
「…もし」
「ホークアイ中尉?」
「大総統がヒトでは無かったら…」
「え?」
「すみません、お忘れ下さい」
「…前に、ね」
「はい」
「訊かれたことがあるわ。もしも自分が化け物であっても、その心は揺るがぬものかと」
「………」
「莫迦なことを、と笑ったわ」
「そう、ですね」
「ヒトは誰しも怪物を心に住まわせている。私もきっと例外ではない」
「えぇ…」
「そんなことだけで貴方をひとりになどしないと、約束したわ」
「ブレッドレイ夫人」
「約束を、したのよ」
聡い彼女は本当は知っているのではないだろうか。
何もかもを承知の上で、彼を愛したのではないだろうか。
そんな傲慢ささえも、愛おしさに変えるだけの深い愛情で。
最期の最後、哀しさだけが残る未来が、
どうか彼女に訪れないよう、信じても居ない神に祈った。
[4回]
「これ?」
「いや、もうちょっと大きかった気がする」
「こっち?それとも、えっと、これとか?」
「んー・・・?」
「もうっ!ハッキリしないわねっ!!」
「レースの柄なんて詳しく覚えてる方が怖ぇだろ!」
「じゃあ、どれ着たかくらい覚えててよ!!」
試着写真を広げて、ウエディングドレスの相談中。
珍しく似合うって言ってくれたくせに、曖昧にしか覚えてないなんて!
せめてデザインくらい!なんて思ったところで無駄かなぁ。
うつむいてみたら、ごめんのついでにわしわしと頭を撫でられた。
[13回]
「腹減ったぁ」
「じっとしてるだけのくせに!」
「じっとしてたって、減るもんは仕方ないだろ」
「その割には身長に反映しないわね」
「誰がチビだッッ!!!」
「言ってないでしょー」
「言ったようなもんだろうがッ」
「まぁ、そうね」
「おぉまぁえぇええええ~ッッ」
「はい、終了。あたしもお腹空いちゃったぁ」
「おいこら!」
「兄さん、ウィンリィ、ばっちゃんがお昼にしようって」
「はぁい」
廊下に出たら、コンソメスープの良い香り。
次の怒鳴り声の前に聞こえたふたり分のお腹の音。
一時休戦、お腹がいっぱいになったら忘れる喧騒。
[13回]
「おいこら、ウィンリィ」
「ひゃあっ!!?」
「うおわ!!?」
「びっくりするじゃない!」
「俺もびっくりしたわ!!」
「急に声掛けるからっ」
「声掛けてうろたえるほど、やましいことでもあんのか」
「なっ、ない、わ、よ…ッ?」
「…お前、嘘吐くの下手だよな」
「あんたに言われたくないわよ!!」
慌てて隠した本が1冊。
見られてないよね、大丈夫だよねッ?
レパートリーを増やしたくて、君の好きな料理に張り付けた付箋。
[12回]
「サイズ、知ってるの?」
「は?」
「あたしのサイズ」
「えー…93くら…」
「どこのサイズよバカ!!」
「ってぇ!じゃあ、どのサイズだよ!?」
「指よ、指!」
「指ぃ?」
「指輪のサイズ!!」
遠回しで直球な要求に、息を飲んだ君の顔。
もしかしなくても考えてなかったわね!?
結婚指輪のちょっと前、エンゲージリングくらい夢見てみたい。
[19回]
「エド!手出して!手!!」
「手ぇ?」
「ほら、早く!」
「ん」
「右手もっ」
「…で、なんだこの状況」
「あったかい」
「へ?」
「手あったかいね、エド」
「…ばぁか」
「それ、さっき僕もやられたからね」
「うおわっっ!!!?」
邪魔するつもりは無かったんだけど、猛烈に邪魔したくなったんだ。
最近、他人の目気にせずにいちゃつくからたまったもんじゃない。
さっさと結婚しちゃえば良いのに、心で呟いたつもりが口に出ていたひとりごと。
[13回]
「兄さんさぁ…」
「…何だその物言いたげな間は」
「昨日…あぁ、やっぱ良いや」
「途中で止めんな!」
「怒らない?」
「な、内容による」
「じゃあ言わない」
「…怒らないから言ってみろアルフォンス!」
「兄さんに用事があって、部屋に行ったんだよね」
「は?いつ?来なかっただろ」
「寝る前」
「寝る前―――・・・あ゛ッッ!?」
「ごめん、見ちゃった」
真っ赤な顔で言い訳しようとする兄を遮って、耳を塞いで聞かぬフリ。
一応断ったんだからね、言っても良いかどうか。
兄の部屋の前で呼び掛ける幼馴染が、中へ入った後に消えた灯り。
[28回]