「あぁ、あのヒトは、セリムは無事かしら」
「…もし」
「ホークアイ中尉?」
「大総統がヒトでは無かったら…」
「え?」
「すみません、お忘れ下さい」
「…前に、ね」
「はい」
「訊かれたことがあるわ。もしも自分が化け物であっても、その心は揺るがぬものかと」
「………」
「莫迦なことを、と笑ったわ」
「そう、ですね」
「ヒトは誰しも怪物を心に住まわせている。私もきっと例外ではない」
「えぇ…」
「そんなことだけで貴方をひとりになどしないと、約束したわ」
「ブレッドレイ夫人」
「約束を、したのよ」
聡い彼女は本当は知っているのではないだろうか。
何もかもを承知の上で、彼を愛したのではないだろうか。
そんな傲慢ささえも、愛おしさに変えるだけの深い愛情で。
最期の最後、哀しさだけが残る未来が、
どうか彼女に訪れないよう、信じても居ない神に祈った。
[4回]
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