「わ、わ、わっ」
「何やってんだ」
「あー!!ズレた!!もうっ!!」
「で?」
「睫毛をカールさせてたの!」
「睫毛?」
「逆さ睫毛が痛いのよう、んー・・・もうちょっと巻けるかなぁ」
「・・・たまにはおしゃれがどうのとか言えよ」
「一日の殆どが作業場なのに、おしゃれしてどうすんのよ」
ピアス空けたときはリザさんとは雲泥の差とか言った癖に!
ほんと好き勝手言うんだから!
震える右手、左手に鏡、瞼を挟まないように構えたビューラー。
[3回]
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「おや、ウィンリィ電話かい?」
「うっ、うん!」
「やっと掛ける気になったんだね」
「えっ何が!?」
「ここ数日、電話の前を行ったり来たり」
「そ、そうだったかしら」
「滞在先を報せて来ていたからねぇ」
「・・・っ!!!」
握り締めたメモ用紙、空で言えるくらいに見つめた数字。
滞在先に居るのかしら?それとも出掛けているのかしら?
ダイヤルを回せないままに過ぎた数日、意を決して受話器を手にした。
[5回]
「夕飯はシチュー!」
「ふー、あったまる~」
「兄さん、年寄りくさい」
「あたしゃそんなこと言わないよ」
「ばっちゃんは若いのよ」
「オレだって年寄りじゃねぇ」
「若くはないよね、言葉のチョイスが」
「エド、なんでそんなになっちゃったの」
「オレまだぴっちぴちの15歳!!」
ぎゃあぎゃあ喚く兄を余所に、みんなで揃えたいただきます。
骨の形のビスケットをデンに差し出し、ボクも一緒にテーブルに着いた。
気の置けない家族の食卓、まだ覚えてる野菜たっぷりのシチューの味。
[4回]
「眠たそうだな」
「分かる?」
「ふらふらしてるし」
「昨日寝てなくて・・・ふあぁあ」
「と、いうことは」
「あんたの修理は明日から」
「ですよねぇええええ!!!!」
無理して整備してもらいたいとか、そういうんじゃないけども。
階段上る音を呼びとめも出来ずに背中を見送る。
忘れてたと振り返る君の笑顔と、おかえり。
[6回]
「にーがーいー」
「あっオレのコーヒー!」
「砂糖入れよう、砂糖」
「飲むのはオレだっつの」
「うりゃっ」
「ミルクまで!!」
「ほら、こっちのがおいしい」
「砂糖までなら我慢出来たのに!」
「あっ、淹れ直すならココアも作って~」
「横暴すぎる・・・」
ココア淹れるならお湯じゃなくてミルクだってば!
そっちのがおいしいのに、どうして分からないのかしら。
砂糖の量だけ子どもの証拠?大人と子どもの境界線。
[3回]
「ここにあった林檎知らない?」
「兄さんが食べてたけど」
「アップルパイ作ろうと思ったのに!」
「あーあ」
「良いわ、エドに買ってきて貰うんだから」
「さっき散歩に行くって言ってたから急がないと」
「エードー!!」
実は僕も食べました、ごめんなさい。
どうせすぐバレるだろうけど、きっと林檎をいっぱい兄さんが買ってくるんだろうね。
甘い甘いアップルパイ、僕達の故郷の味。
[3回]
「・・・っと」
「ん?」
「何?」
「いや、さっき」
「さっき?」
「・・・やっぱ、何でもね」
「変なエド」
触れた君の右手が急に離れた気がして頭を上げた。
いつもどおりの君の顔、いつもどおりの君との距離。
首を傾げて瞬きひとつ、くすぐったい感情がひとつ浮かんだ。
[10回]
「お、ハンモック」
「ひなたぼっこに良いかなと思って」
「貸して貸して、オレ昼寝する」
「やーよっ、一番はあたしなんだから!」
「お前、今から仕事するじゃん!」
「だから明日使うの!」
「意味分かんねぇ!」
「じゃあ、ふたりで乗れば良いじゃない」
「アル、いくらエドが小さいからって狭いわ」
「今何つった、ウィンリィッ!」
風にゆらゆらハンモック。
幼い頃は三人で昼寝出来たのに、今はこんなに小さく見える。
振り返る日はまだ近い思い出、前を見たらずっと遠い未来。
[6回]
「兄さん、足」
「足?」
「捻ったでしょ、見せて」
「これくらい大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ、見せて」
「平気だって」
「ウィンリィー!ばっちゃーん!!」
「ばっ、おまッ!!」
「エド!今度は何やらかしたの!!」
「ほら来たー!!」
どうせバレたら叱られるんだから、大人しく治療されたら良いのに。
不慣れな義足スペアでバランス崩して倒れ込む。
真っ赤に腫れた足首、悲鳴を上げた幼馴染に掴まれた右足。
[2回]