「おい、ウィンリィ」
「んー?」
「うとうとしてんぞ、部屋で寝ろよ」
「んー・・・」
「ばっちゃん、ボク連れて行こうか?」
「小さな子どもじゃあるまいし。放っておいで」
「あ」
「エドー」
「んあ?」
「おやすみ」
「!!!?」
突如、ずしりと背中にかかる重み。
小さな子どものが可愛げがずっとあるに決まってる。
これは運べということか、がっちりと首に回された幼馴染の腕が外れない。
[8回]
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「あーあっ、うちにはサンタさんは来ないのかしら!」
「いい子のとこにしか来ないからな」
「こんなにいい子なのに!そう思わない!?」
「アルにも同じこと聞いて来い、微妙な顔するから」
「もー!」
「ん」
「ん?」
「やる」
「知らなかったわ、エドってサンタクロースだったのね」
「アホか」
手のひらにちょこんと乗ったプレゼント。
三回瞬きをしても消えないってことは本物かしら。
手袋越しの手を握ったけれど、タイミングを逃した『ありがとう』。
[4回]
「暇そうな顔」
「暇そうじゃなくて、暇なんだよ」
「昼寝なんてするから夜眠れないのよ」
「ほっとけ」
「アルは?」
「オレが起きてたら気ぃ遣うみたいだから」
「あたしは気にしないって言うの?」
「すんの?」
「しないけど」
(・・・・・・意味分かんねぇ)
煌々と照らし出された部屋の中で、金属音だけが響いてた。
並べられた工具を、幼馴染の手がちらりと見もしないで選んでく。
振り返らない背中に、もどかしい感情ひとつ。
[5回]
「かゆいとこはございませんかー」
「ありませーん」
「つぅか、髪くらい自分で洗えよ」
「たまには洗って貰いたい気分なのっ」
「俺も洗いたいんだけど」
「じゃああたしが洗ったげる」
「後ろから?前から?」
「どっちが良い?」
「・・・・・・・・・・・後ろ」
「何でそんなに考え込むのよう」
流れるシャワーの音に集中する。
頭の中で繰り返す元素記号、花の香りのシャボン玉。
一体いつになったら慣れてくれるんだ、鳴りやまない鼓動が喧しい。
[5回]
「出来たー!」
「お、良い匂い」
「余ったパイ生地でシチューのポットパイ!」
「腹が鳴りそう」
「アップルパイもあるのよ」
「おう」
「余っても良いのよ」
「うん?」
「最近、無性に甘いものが食べたいの」
「食欲の秋には遅いよなぁ」
「ねぇ」
ん?んん?体質が変わったとかそういうの?
あれ?それって何か覚えがあるぞ。
熱々のポットパイに近付こうとする息子を抱えて、思いだした1年前。
[5回]
「アル、俺のカーディガン知らねぇ?ニットのやつ」
「こっちの洗濯ものに紛れてはなかったけど」
「・・・悪い、発見した」
「あ、ウィンリィ」
「なになに?」
「お前それ俺の!!」
「どうせ家の中に居るんだから寒くないでしょ!」
「寒いから探してたんだよ!返せ!!」
「やーだー!!」
大きい上着の袖からちょこんと出た指。
捲りあげた袖はずるずるとすぐに落ちて邪魔そうなのに。
そこは可愛いって言ってあげようよ、逃げ回る幼馴染と追いかける兄。
[7回]
「甘い匂いがする」
「ぎくり」
「ぎくりって何だ、ぎくりって」
「べっつにぃ?」
「声が裏返ってんぞ」
「仕方ないわね、あんたにもあげるわよ」
「・・・どう見たって残りもんだよな?」
「せっかくあげたのに!!」
「あれ、ウィンリィ。さっき兄さんとふたりでってチョコ貰ってなかった?」
「アル、しーーーーーーーーー!!!!」
「てめぇ、ウィンリィッッ!!」
せっかく見つからずに済みそうだったのに!
アルに口止めするの忘れてたわ。
慌てて背中に隠したふたりぶんのホットチョコレート。
[3回]
「あれ?兄さん、手帳」
「んあ?」
「何挟んでるのコレ」
「メモじゃねぇの?」
「メモじゃなくて、えぇと・・・?」
「うん?」
「暗号?」
「最近何か書いたっけ」
「一見お土産リストみたいなの」
「・・・・・・・・・・・・ッ、ちょ、まっ、アル!!何でもないから返せ!!」
「何でもないのにうろたえるんだ?」
「いいいいいいいから!!!」
「ウィンリィ絡みだ~」
「煩い!!!」
否定しない辺りが正直だよね。
残念でした、僕のが身長高いって忘れてる?
真っ赤な顔で取り返された手帳、リストには確か可愛らしい香水の名前。
[5回]
「うー、寒い寒い!」
「一番あったかい部屋に居る癖に」
「さっき換気したんだもん!冷え冷えよ!」
「うりゃ」
「ぎゃああああ!!!」
「可愛くねぇ悲鳴!!」
「あんたの機械鎧がどんだけ冷たいと思ってんのよ!」
「それをオレはぶらさげてんだぞ!」
「あ、付け根冷やさないようにね。しもやけになるから」
「ちょう冷静!!」
ひやりとした首筋に、悴んだ手で触れてみる。
何故かくすぐったさを覚えて引っ掻いた。
凍えそうな機械鎧、あっという間に忘れた冷たさ。
[3回]