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鋼の錬金術師 244

「アップルパイ?」
「ううん、今日のはミートパイ」
「夕飯用か」
「あとクラムチャウダーも」
「最近、冷えて来たよなぁ」
「ここでくらいあったまって欲しいしね」
「そんなに外ばっかうろついてないって」
「家っていうのはあたたかいものだと決まってるの」



冷えた食事にも、冷たい寝床にもぶちあたったことはないけれど。
何も食べない弟とする食事はやっぱりどこか寂しくて。
流しこんだクラムチャウダーが、身体にじわりと染み込んだ。

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鋼の錬金術師 243(未来)

「ばっちゃん、あそこのふたり何で黙ったまま睨み合ってんの」
「さてねぇ。10分くらいはあのままだけど」
「長!」
「また何かやらかしたのかね」
「兄さんは迂闊の塊だしなぁ」
「案外やらかしたのはウィンリィかもしれないよ」
「へ?」



迂闊だったのはあたしの方。
不意に上げた顔があんまり近くて、慌てて君を突き飛ばした。
意識してない、なんてもう言えない。

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鋼の錬金術師 242(未来)

「・・・今から『寒い』って言った奴、一回パシリな」
「エド、今言った」
「説明だからノーカン!!」
「何で暖炉に早くから火入れて無かったのさ」
「ばっちゃん以外、起きて来るのが遅かったからだろ」
「ばっちゃん、作業室だからねぇ」
「早く温まれ~」
「良いこと考えた!」
「冷てぇ!!!」
「ヒトの背中は温かいわ!」
「ウィンリィ!駄目だからね!僕のは駄目だからね!!」
「俺もやる!!」
「えっちー!!」
「あー・・・暑くなってきた」



白い息を吐きながら、三人で暖炉の前に陣取った。
真ん中になったらなったで面倒だけど、端っこも居づらくてしょうがない。
ブランケットにくるまって、見えないふり、聞こえないふり。

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鋼の錬金術師 241(未来)

「ウィンリィ、来い来い」
「ちょっとぉ、デンじゃないのよ」
「良いじゃん、別に」
「良くないっ」
「あーのなぁ、たまには素直に甘えろよ」
「何よ何よ!あたしとデンのどっちが大事なのよ!」
「えええええええ」
「あたしはデンだけど!!」
「おいこら!!!」



うわあ、何なのあのバカップル。
僕、そこのソファに置いてある本に用事があるんだけど。
近寄れない雰囲気、近寄りたくない胃もたれしそうな甘い空気。

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鋼の錬金術師 240

「悔しいわ」
「は?」
「何その肌!!もっちもちじゃないの!!」
「太ってるみたいに言うな!」
「こっちはこまめに手入れして保ってんのに!!」
「知るかよ」
「ずーるーいー!!」



さっきからヒトの頬をつまむな、痛い!
がさがさの指先の手入れはしていても追いつかないらしい。
次に帰省したオレの荷物に紛れさせた、バラの香りのハンドクリーム。

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鋼の錬金術師 239

「うわ、冷たい」
「お前のが冷たい」
「エドって体温高そうなのに」
「どういう意味だ」
「子ども体温」
「おーまーえーはーッッ」
「いたたたたた!!!!」
「ふたりで暴れてたら、嫌でも体温上がると思う」
「「なるほど」」



いやいや、そこは頷くとこじゃないでしょ。
どっかずれてる兄と幼馴染、手を繋ぐのも日常茶飯事。
まだまだ幼馴染の延長戦、恥じらいが生まれたらそこからスタート?

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鋼の錬金術師 238

「例えば、あのとき何もなかったら」
「ウィンリィ」
「例えば、何も知らないままでいられたら」
「例え話だ」
「そうね、例え話だわ」
「過去は、変わらない」
「もしも、変えられたら?」
「変えられないから、未来を見るんだ」



数えきれない後悔と懺悔、一方通行の片道切符。
握り締めた手のひらが解けるのはいつだろう。
前を見るのに昏い瞳、あぁそうだ、今日は雨が降っていた。

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鋼の錬金術師 237

「ふっふっふ~」
「うお、何だよ。気味悪ぃ」
「うるさいわね」
「やけに機嫌良いな?」
「じゃーん!」
「映画のタダ券?」
「見たかったの」
「へー」
「そんなワケで明日ね」
「・・・ハイ?」
「あんたも一緒に行くのよ!」
「聞いてない!!」



叫んでみても暖簾に腕押し。
ちらりと見えたのは間違えてもアクションだのでは無かったはずだ。
ふたりで出掛ける映画館、勝手に決められた明日の予定。

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鋼の錬金術師 236

「む!むむむー!!!」
「食いながら喋るな!」
「っん、っと」
「で、何?」
「そのプリン、賞味期限切れてる」
「先に言え!!むしろ取っておくな!!」
「言ったじゃない!それに1日2日くらい大丈夫よ!!」
「腹壊したらどうすんだ!!」



食べないなら、あたしが食べるってば!
この食べかけのシュークリームと交換してあげるわよ!
あまいバニラビーンズの香り、食べられたカスタードクリーム付きのあたしの指。

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鋼の錬金術師 235

「お、本読んでるなんて珍しい」
「たまには読むわよ」
「絵本?漫画?」
「普通の小説ですぅ」
「・・・・・・・・・普通?」
「普通じゃないの」
「タイトルからして胡散臭い!」
「機械鎧関連なら何だって読めるわ!!」
「内容選べよ」
「良いじゃないの、好きなんだもの」



三流小説の匂いがぷんぷんする、SF染みた薄めの本。
どんなシーン読んでるのか、彼女の表情で手に取るように分かる。
堪え切れずに吹き出したら、訝しげにこちらを睨んできた。

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