「……もしもし」
『…獄寺くん?あの、笹川…です』
「あぁ」
『ごめんね、突然』
「別に」
『ツッ君、どうか、した?』
「何だソレ」
『携帯、繋がらなくて…メールも返って来なくて』
「お忙しいんだ」
『それなら、良いんだけど…こんなの、初めてだったから』
「そんなときだってあるだろ」
『うん、でも』
「何だよ」
『よく分からないんだけど、ざわざわするの』
「……」
『ツッ君がどこにも、居ない気が、して…』
「馬鹿言ってんな、十代目はお仕事でイタリアへ出張中だ」
『うん。ごめんね、変なこと言って…』
「…駅前」
『え?』
「駅前のケーキ屋、苺フェアやってるからハルと行って来いって十代目が」
『ツッ君が?』
「あぁ」
『そっか。じゃあ、ツッ君も今度は一緒に行こうって伝えて』
「…もう切るぞ」
『うん、ありがとう。それじゃあ』
「笹川か?」
「あぁ」
「…どっちが、ツライんだろうな」
偽りの約束、届くことのない想い。
誰もこんな未来を望んでなどいなかった。
光を失った世界は空っぽで、冷たい闇が侵蝕していく。
[2回]
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「この前、中学のときのクラスメイトと会ってさ」
「あぁ」
「今、何やってんだって聞かれたんだ」
「答えたのか」
「答えたよ、ちゃあんと」
「何て?」
「『Il pacifista che vive nell'oscurità』ってね」
「はっ、grande bugiardoめ」
「そんなことないと思うけどなぁ」
暗がりでなければ見えない世界がある。
もう目を背けられない世界を知る。
前方には深紅の薔薇。
後方には純白のカサブランカ。
歩いて行くこの道の戻ることのない来た道が、
限りなく澄み渡るよう、茨の道を切り開く。
[1回]
「あ、兄さん前…」
「どわ?!」
「きゃあ?!」
「ぶつかるよ」
「ぶつかったよ!!」
「もう!家の中でくらい前見て歩きなさいよね莫迦!!」
「ちょっとよそ見しただけだろッ」
「本読みながら歩いてるくせによく言うわよッ」
「ウィンリィ、大丈夫?」
「あー…ちっちゃい!螺子ばらまいちゃった」
「何でそこを強調する必要があるんだよッ」
「兄さん、拾う!」
「分かってるよ!!」
目に入った、螺子を拾う白い指先。
傷だらけ、マメだらけ、欠けてしまう爪は短くて。
ちっとも女の子な手じゃないのに、
彼女らしいその手は嫌いじゃないんだ。
[3回]
「エド、雪降ってきたよ」
「うええ、積もらないと良いけどなぁ」
「何でよ、勿体無い」
「お前、この寒い中、雪かきする身にもなってみろ」
「あたしも手伝うじゃない」
「あぁ、去年は大きな雪だるま作ってたな。オレが雪かきしてる隣で」
「あれも立派な雪かきよ!」
「じゃあ、今年は逆で」
「えっ、嫌よ。面倒くさい」
「やっぱり遊んでんじゃねぇか!!」
「お前たち、患者が居るときくらい静かにおし!!」
そっと窓を押し開く。
悴む両手をすり合わせ、白い息はゆるりと溶けた。
空から零れる冬のかけら、子どものように心が躍る。
[3回]
「辛気臭い顔してんなぁ」
「ラビ」
「笑えよ、楽しいこと考えてさ」
「えぇ?笑ってるじゃないですか」
「お前の笑顔ってどっか嘘くせぇ」
「………」
「………」
「そんなことありません」
「ほら、ちょっと黙った。嘘吐くの、癖?」
「嘘って言うの止めて下さいよ。別に癖でもありませんって」
「ま、いーけど」
「ラビこそ」
「うん?」
「僕よりずっと、嘘を吐くのが上手じゃないですか」
一瞬だけ見開かれた瞳を、見ないフリして微笑んだ。
君が誰よりも優しいことを知っている。
凍て付く夜に落ちた、氷のかけら。
[1回]
「雲雀さん」
「……………」
「ひーばーりーさーんっ」
「…僕の嫌いなもの教えてあげようか?」
「群れ、馴れ合い、六道骸、幻術?あとは…」
「足りない」
「あ、俺ですか?」
「嫌われてる自覚あるんだ」
「嫌われてる自覚はありますけど、面白がられてる自覚もありますよ」
「へぇ」
「雲雀さんは、口で言うよりもずっと人間味がありますよね」
「褒めてるの、貶してるの?」
「どっちだと思います?」
「ほんと、君、言うようになったよね」
怯えるばかりだった君の瞳に、
刃が宿るようになったのはいつからだった?
笑顔で毒を吐く君が、恐れるものは変わらない。
大切なものを守るためなら、いったい何を引き換えにするのだろう。
[0回]
「ゆき」
「あ?」
「みたいだ、なー」
「雪?」
「桜の、はなびら…吹雪」
「桜吹雪」
「へ?」
「って言うんだ。覚えとけ」
「うん、わかった。覚えたー!」
「ほー、来年聞くからな」
「何だよ、もー!」
ごめんね。
ごめんね。
ごめんなさい。
溢れ出す感情に名付けられたのは、根拠のない切なさと痛み。
今年も過ぎ行く雪の季節に怯え、泣いた。
[1回]