「すごく、簡単なことだと思うんだ」
「そうかしら」
「仲直りしたいんでしょ?」
「謝りたくは無いわ」
「謝らなくても良いよ、ただ」
「ただ?」
「さっきと同じことを言えば良いんだよ。ねぇ、兄さん?」
最初からそこに居ましたと、言わんばかりに立ってる幼馴染。
誤魔化す嘘を吐くのが、苦手なことくらい知ってるわ。
気不味そうに視線を逸らした君と同じくらいに赤い頬。
[7回]
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「裏口なんかに居たんだ」
「追っかけてくるのはアルなのね」
「鼻声。泣いてたの?」
「女が隠れて泣いてるときは気付かないフリをするものよ、アル。モテないんだから」
「えっ、ほんとに?!…憶えておこう」
「…違うのよ」
「さっきの?」
「ほんとに、嫌いなワケじゃないの」
「そうだね」
「でもね、嫌だったの」
「うん」
「あたしの知らない時間があるのが、嫌だったのよ」
ほんのちょっとの会えない間。
旅をしてた頃なら、なんてことない時間のはずだった。
視線を合わせる高さが変わった、君との確かな空白の時間。
[9回]
「おーい、兄さーん」
「…嫌い」
「兄さーん、戻っておいでー」
「嫌いならまだしも、大っ嫌いって何だ!!」
「え、そこなの?嫌いなら良いの?」
「……良くない」
「おお、珍しく正直」
「じゃなくて、オレは嫌われるようなことは一切…ッ!」
「…………」
「…………」
「一切…」
「あるよね、今に至るまで腐るほど」
機械鎧破壊・無茶な修理要求・暴言の数々えとせとら。
心当たりが多過ぎて、どれに謝ったら良いのか分カリマセン。
追いかけたら殴られる、そんな予感のした背中。
[7回]
「ほれ」
「嘘!」
「マジで」
「うううううう嘘よぉ~っっ!!」
「やっぱり、オレの方が高い!」
「アル!アル!!エドに身長抜かれたぁっっ!!」
「ほんとだ」
「まぁ、エドよりアルがそのうち抜くだろうけどね」
「うっさいミニマム婆!!」
「元ミジンコが生意気言うんじゃないよ」
「誰がミジンコだッ!!」
「…い」
「いい加減認めろよ」
「…エドなんて、大っ嫌い!!!」
「あ、直撃」
面白いくらいにダメージ受けてる。
そういや、嫌いなんて滅多に言われ…あれ、意外と初めて?
硬直したまま動かない兄と、真赤な顔して走って行った幼馴染。
[7回]
「…ウィンリィ、オレ眠たい」
「年越しくらい一緒に起きてなさいよぅ」
「んなこと言ったって、仕事以外であんまり夜更かししねぇし」
「確かにあんた良く寝るわよね」
「そういうわけで」
「ええぇぇええ!!可愛い奥さんのお願いくらい聞いてよー!!」
「そうだよ、兄さん。デンだって起きてるんだし」
「エドは図体でかくなっても子ども体質だねぇ」
「よぉし分かった!そんなに言うなら起きててやるよ!!」
「…扱いやすいわぁ」
押してダメなら引いてみろ。
どこの国の格言だったかしらね。
キッチンから運んできたのは、たっぷり淹れた濃い目のコーヒー。
[7回]
「アル、エド知らない?」
「兄さんなら倉庫の掃除やってたよ」
「ばっちゃんも?」
「多分ね。何が不要必要か兄さんじゃ分からないし」
「………倉庫…?」
「え、うん?」
「エド!待って!あたしがそっちやるから!!」
「…見られちゃ不味いものでもあったかな」
直後に聞こえた幼馴染の悲鳴と兄の爆笑。
忘れてたものが出てくる大掃除、何があったか気になるところ。
僕も後で行ってみよう。
[5回]
「ばっちゃん、風呂空いた?」
「あぁ、もう寝るよ」
「お休み」
「お前たちも疲れたろう。早く休みな」
「もうこんな時間。明日は朝寝坊確定ね」
「そうだ、エド」
「アル達なら、もう寝たぞ?」
「違うよ。まだ、言ってなかったと思ってね」
「?」
「改めて、ロックベル家へようこそ。孫娘を頼んだよ」
「ばっちゃん…」
「……うん。オレも、宜しくお願い、します」
「あ、エド涙目」
「なっ、泣いてねぇ!!」
「うっそだぁ~」
伸ばされたしわだらけの右手に感じた重みとぬくもり。
これまでと、何も変わらないと思っていた。
明日から始まる新しい日常。
変わらないものなんて、何ひとつありはしない。
[9回]
「おい、ウィンリィ。お前、ちょっと見ない内に…」
「綺麗になった?可愛くなった?それとも身長伸びた?」
「伸びてない。伸びるな。むしろ縮め」
「縮まないわよ」
「そうじゃなくて」
「うんうん」
「……………………老けた?」
「あ」
「ッエドのばか!!同い年に見られないのはエドがちっちゃい所為だもん!!」
「誰がチビだ!!!思いっきり殴りやがって!!」
「いやいや、今のは兄さんが悪い」
そういうのは、大人っぽくなったって言うんだよ。
[7回]
「ラビ、Go!」
「Go!じゃねぇよ!」
「こんなときくらいにしか役に立たないんですから役に立って下さい」
「おいおいおいおい!!俺、どんだけ役立たず扱いなんさ!!」
「………」
「………」
「…聞きたいんですか?」
「…遠慮しとく」
「じゃ、ラビが神田担当で」
「アレンがリナリーな」
「まぁ、かろうじてでも構わないから生きて帰って下さいね」
「心配しなくても絶ッッッッ対無事に帰ってやるさ!」
確か、俺の方が年上だよな?
こいつと言い、ユウと言い、もうちょっと敬っても良いんじゃねぇの。
彼の背後にうっすらと見える黒い影に文句を飲み込み、突撃開始。
[4回]
「もうすぐ今年も終わるなぁ」
「兄さん、年寄りくさい」
「うっさい!」
「感傷?」
「…戻れなかったな」
「そうだね…」
「来年こそは、絶対元に戻ろうな」
「そしたらウィンリィが大きなアップルパイ焼いてくれるかな」
「あぁ、絶対」
今度こそ。
今度こそ。
一体何度願っただろう。
叶えたい願い、届かない両手。
もどかしさばかりが降り積もる。
[4回]