「んー」
「もーらいっ」
「あっ!?」
「んぐ、あんらよ?」
「それ、ミルクキャラメル・・・」
「げぇ?!」
「口に入れたものは最後まで食べる!!」
口直しと奪い取られたあたしのコーヒー。
ちょっと、まだ一口しか飲んでないんだけど!
顔を出した幼馴染が表情の読めない鎧の顔で、訝しげに黙り込んだのは別の話。
[2回]
「エド~っ」
「何だ、何だ」
「ゴムが髪に絡まって取れないの!」
「うっわ」
「切らないでね?切らないでね!?」
「切らねぇよっ、と」
「取れた?」
「ん、ほれ」
「痛かったぁ~っ」
頭を撫でつけて、彼女がほっと一息。
心配しなくても切るワケないだろ。
はちみつ色の長い髪、香るシャンプーに少しだけ揺れた鼓動。
[9回]
「お風呂お風呂~」
「あ、俺も入りたい」
「あたしと一緒に…?!」
「ちっ違ぇよバカ!先に入りたいって言ってんだよ!」
「あたしだって入りたいもん!」
「俺!!」
「あたし!!」
「ばっちゃん、お風呂空いてるなら僕使うね~」
「バカだね。ケンカばかりしてるからこういうことになる」
大人しく一緒に入れば良かったんじゃないの、なんて言わないよ。
絶対1時間じゃ上がってこないんだから。
ソファから見える仲良く並んだふたつの背中に、素直じゃないなぁと含み笑いを噛み殺す。
[5回]
「ウィンリィ!」
「おわっ!びっくりした!!」
「俺のプリン食っただろ!」
「プリン~?」
「冷蔵庫に入れてたやつ!」
「あー…あぁ!うん、食べた」
「お前、昨日食ってたよな?」
「うん」
「信じらんねぇぇえええええ!!!」
ちゃんと名前まで書いてたぞ!
お前の食ったらめちゃくちゃ怒るくせに!!
不貞寝して目が覚めたら、焼きたてのアップルパイに書いてあった名前。
[5回]
「ちょっと、エド!聞いてるの!?」
「はいはい、聞いてますよ」
「………」
「ウィンリィ?」
「頭なでるの禁止ー!!」
「はぁ?!何で?!」
「禁止ったら禁止なの!!」
あたしの身長止まったの、ぜったいソレの所為だわ!
嫌いじゃないけど、好きだけど。
安心させるように頭をなでる君の癖、悔しいから教えてあげない。
[8回]
「エドのパンツ発見!」
「うわああああああ!!!」
「そこらに置きっ放しにしてるからでしょー」
「置きっ放しじゃなくて落としてたんだッ!」
「今更、そんなにうろたえなくても」
「…この前俺がお前の下着拾ったとき大騒ぎしたじゃねぇか」
「そんなの当り前じゃないっ!」
「……………」
何がどう違うんだ!
こっちが恥ずかしいなんて間違ってるだろ!!
女相手に通用しない常識、苦い理不尽さを噛み潰す。
[7回]
「むー」
「どした?」
「口開けて、はいあーんっ!」
「あー…何だこれ…?」
「おいしい?おいしくない?」
「…びみょー」
「あう、やっぱり失敗かぁ」
「食えないなら寄越せ、勿体ねぇし」
「えっ嘘、食べてくれるの?!」
初めて作ったキッシュに首を傾げる。
材料間違ってないんだけどなぁ、塩分少なくしすぎたかしら。
お世辞にもおいしいと言えない、味のしないキッシュを放り込む君。
[5回]
「あ、電話」
「はい、義肢装具のロックベル…あっ、今日和!」
(客かな)
「えぇ?はい、はい、あはは」
「ばっちゃん、俺先に風呂入ってきても良い?」
「あぁ、良いよ」
「エドー、マスタングさんから~」
「はァ?風呂入ってるって言っといてくれ」
「あのね、エドの面白い話たくさん聞いた」
「早く代われよぉぉおおおおお!!!!」
受話器の向こうから聞こえた大爆笑。
この声、もしかしてひとりじゃねぇな!?
幼馴染で今更恥ずかしいことも無いけれど、気になって仕方がなかった会話の内容。
[10回]
「~♪」
「何の曲だ?」
「知らない。ラジオで流れてたの」
「ふぅん」
「好き?嫌い?」
「どっちでも無ぇけど」
「ん?」
「お前が歌ってるのは、好き」
あたしの頬、真っ赤に染まっていないかしら。
干してたシーツに、顔が見えないようにうずまった。
思わず歌声が止まったあたしを不思議そうに見返す、君。
[7回]