「あったま痛い」
「熱は無ぇぞ」
「エドの体温が高過ぎる所為で分からないんじゃないのぉ」
「阿呆なこと言ってないで、薬でも飲んどけ」
「甘いシロップが良い」
「そんな頭痛薬聞いたこと無いわ」
「じゃあ口移し!」
「何が『じゃあ』だッ」
真っ赤な顔して怒鳴らないでよ。
だから、頭に響くんだってば。
苦い薬を飲み下したら、甘いキャンディ放り込まれた。
[9回]
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「あれ?」
「ん?」
「これ、エドの?」
「あーオレのだ」
「栞なんて珍しいわね」
「付箋やらメモ用紙やら挟んでたらゴミだらけになったんだよ」
「そういう理由なの」
「他にあるか?」
「願掛けでもしてるのかと思った」
「は?」
「四つ葉のクローバーだもの、この押し葉」
「お前が居るのに、今更倖せの願掛けしても」
言って、しまったって顔。
たまに言ってくれる嬉しい言葉。
そっぽを向いた君に後ろから抱き付いて、にやけた口元隠してみた。
[10回]
「出た!」
「うを!!?」
「出たのよ、エド!!」
「…何が」
「蛾」
「蛾?」
「おっきいやつ!窓開けたときに入って来たのっ!!」
「追い出せば良いだろ」
「ど…どこ行ったのか分かんなくなっちゃった…」
「お前の部屋ごちゃごちゃしてるからなぁ」
「探すか、一緒に寝てくれるか、どっちが良い!?」
「オレ、どうせ徹夜だからそこに寝とけ」
「ドア開けたら死骸があったらどうしよう」
「そのときは片付けてやるから」
「絶対よ?絶対だからね!?」
「へいへい」
ゴの付くアレならともかく、虫くらいで騒ぎ過ぎだろ。
ブランケットに潜り込んで、すぐに聞こえる寝息。
こっちで寝ろは失敗だったかな、こちらまで眠たくなってくる。
[10回]
「兄さん、辞書諸々と部屋とベッド貸して」
「追い出す気か!」
「寝るとこくらい、他にあるだろ」
「…診療所のベッド借りるかな」
「あたしのとこで寝ればいいじゃないっ」
「お、襲われる」
「あたしのこと、何だと思ってるのよう」
何って、そりゃ…まぁ、うん。
そんなことより、ひとの枕を勝手に持って行くんじゃ無ぇ!
弟には鍵を掛けられ締め出され、理性と戦いつつ彼女の部屋へと足を向ける。
[10回]
「おい、手ぇ空いたぞ」
「じゃあ、庭に水撒いておいて」
「へーい」
「ついでに肩揉んでくれると嬉しいなぁ」
「あぁ、私も頼もうかね」
「ばっちゃんはともかく、お前は後で交代だからな!」
「えー!」
片手にスパナ持ったまま不満を言うな。
いつソレが飛んでくるか、気が気じゃないんだ。
庭に水撒き、シャワーで虹が浮かんだら君が笑顔で覗き込む。
[8回]
「エド、もちょっとそっち寄って」
「オレの寝床なんですけども」
「ひとりで寝るより、ふたりで寝た方があったかいでしょー」
「お前が壁際来いよ」
「あんたのが寝相悪いじゃない」
「だからってベッドから落ちるかッ」
「あ!」
「あ?」
「エドがあたしを抱っこして寝れば良いと思う!」
「却下!!」
隣で寝るんだから、上に乗ろうが大して差は無いはずよ。
必要以上に触れない君に、わざと寄り添ってしらんぷり。
苦情なら明日の朝に聞いてあげる、ぎゅっと目を瞑って告げるおやすみ。
[10回]
「エド、インク持ってない?」
「お前持ってんだろ」
「切れちゃったの」
「補充しとけよ」
「下に行けばあるんだけどね」
「取って来い!」
「隣の部屋のが近いでしょ!けちけちしないでよ」
「横暴な」
「インク代にコーヒー入れてあげるから」
「結局、下に降りるんじゃねぇか。しかもソレ、自分の用事が終わったあとだろ」
「よくお分かりで」
男が細かいこと言うんじゃないの。
インクのストックひとつ貰って、ドアへ向かって踵を返す。
まだ不満そうな君の頬にキスをひとつ落としたら、
真っ赤な顔して怒鳴られた。
[7回]
「…増えた」
「体重?」
「違うわよ馬鹿!!」
「仕事量?」
「分かってるなら、体重とか言わないで頂戴」
「冗談だったのに殴らないで下さい」
「そう、仕事が増えてるの」
「ありがたいじゃねぇか」
「そう、なんだけ、ど」
「まずいことでもあるのか?」
「…エドと、一緒に居る時間、減っちゃうなぁって」
ずきずき痛む頭とか、いじってる銀色の凶器とか。
そういうの全部見えてるのに、どうして可愛いとか思えるんだ。
減った時間を埋めるように、きつく、きつく、抱きしめる。
[8回]
「あれ、ここに置いといたコート知らねぇ?」
「洗ったけど」
「マジで!?」
「洗っちゃ不味かった?」
「ポケットにもの入れてたんだよ!」
「あぁ、コレ?」
「そう、それ…それ―――ッッ!!」
「大声出さないでよ、びっくりした!」
いや、だってそれ、お前にやるつもりだったんだ。
ついでに言うと、形ばかりのエンゲージリングだったりするんですけども。
自分の迂闊さに頭を抱えれば、胡乱気にこちらを見やる彼女の視線が突き刺さる。
[9回]
「エド、休憩しよ?」
「今、何時?」
「2時過ぎたとこ」
「もうちょっとして降りる」
「ばっちゃんが買って来たシブースト、無くなっても文句なしね」
「待て待て待て!ちょっと待った!!」
「早い者勝ちー!」
騒がしい音を立てて階段を降りれば、呆れた顔してため息吐かれた。
だってさぁ!こいつ絶対冗談じゃないぞ、今言ったの!!
いい年しておやつの取り合い、昔から変わらないやりとりにほんの少しだけ安堵する。
[8回]